高速延伸と鉄道衰退に見る「北海道の交通」光と影 高速道路は「縮小する鉄道」の代替となるか?

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学生のころ、北海道ワイド周遊券で鉄道を乗り継いで旅をした思い出がある自分を振り返ると、鉄路の縮小は確実に観光客の旅へのいざないの気持ちを萎えさせるし、鉄道の廃止が地域の過疎化を進めた各地の例を見ると、利便性や効率だけでは語れない、鉄道が地域に果たす役割の重要性を思い起こさせてくれる。

交通網の整備は観光動向を変える

この夏、襟裳岬にも足を延ばしたが、鉄道網から遠く切り離され、相対的に交通の便が悪い立地にある岬周辺は観光客も少なく、盛夏の観光シーズンだというのに閑散としていた。

岬の灯台前には、島倉千代子と森進一の両方の「襟裳岬」の歌碑があるが、「襟裳の春は何もない春です~♪」という森進一の歌詞が夏でも通用するかのように感じられた。

襟裳岬に立つ島倉千代子の「襟裳岬」の歌碑。隣に森進一の歌碑もある
襟裳岬に立つ島倉千代子の「襟裳岬」の歌碑。隣に森進一の歌碑もある(筆者撮影)

一方、新千歳空港に近く、鉄道も高速道路も付近をとおり交通の便が良い白老(しらおい)のウポポイ(民族共生象徴空間、2020年開館)、登別温泉、小樽、トマム周辺などは観光客の姿であふれていた。

高速道路の延伸という「光」の一方、石炭輸送や多くの観光客の足となってきた鉄道の衰退という「影」は、地域の歴史や文化も失わせてしまいそうな感覚がぬぐえない。

新千歳空港からも近い安平町に「あびらD51ステーション」という道の駅があり、その名の通り、かつて北海道でも活躍したD51形蒸気機関車(SL)が静態保存されている。

道の駅あびらに保存されているD51型蒸気機関車
道の駅あびらに保存されているD51形蒸気機関車(筆者撮影)

このSLは、文化庁が認定する日本遺産「北の産業革命 炭鉄港」の構成資産となっており、かつて北海道の近代化を支えた石炭・鉄鋼産業の残照を間近に感じることができる施設でもある。

とはいえ、かつての鉄道の象徴ともいえる蒸気機関車が、駅ではなく車で訪れることを前提とした「道の駅」に展示されていることに、一抹の寂しさを感じざるを得なかった。10年後、20年後、北海道の鉄道と高速道路は、今以上に立場を大きく隔たせていることを予感させる。

交通網の整備は観光動向にも大きく影響する、そんな状況が見て取れたこの夏の北海道旅であった。

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佐滝 剛弘 城西国際大学教授

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さたき よしひろ / Yoshihiro Sataki

1960年愛知県生まれ。東京大学教養学部教養学科(人文地理)卒業。NHK勤務を経て、NPO産業観光学習館専務理事、京都光華女子大学キャリア形成学部教授、リベラルアーツ・ジャーナリスト。『旅する前の「世界遺産」』(文春新書)、『郵便局を訪ねて1万局』(光文社新書)、『日本のシルクロード――富岡製糸場と絹産業遺産群』(中公新書ラクレ)など。2019年7月に『観光公害』(祥伝社新書)を上梓。

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