キラキラネーム「王子様」に決別した18歳のその後 母が名付けた理由は「私にとって王子様だから」

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申し立ての書類をもらい、理由の欄の「奇妙な名である」の項目に〇を付けて提出した。約1カ月後、家裁から封筒が届いた。少し緊張して封を開けると、「『王子様』を『肇』に変更することを許可する」と審判結果が書かれていた。

「王子様」から「肇」」に改名した直後の赤池さん(2019年3月、提供=読売新聞社)

「やった。王子様じゃなくなった」

改名のことを、「思い出がなくなるみたい」と言ってくれる友人もいた。周りの人たちに恵まれて生きてきたんだな。改めて思った。

名前に注目されないことが新鮮だった

2020年の春、「肇」になって1年がたった。入学した大学では、自己紹介をしても周りの反応は薄い。

「これが普通なのか」。名前に注目されないことが、新鮮だった。

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初めて会った相手と仲良くなろうと、自分から「俺、王子様だったんだ」と話すこともある。「どっちで呼べばいい?」と聞かれて、「どっちでも」と答えると、大抵、相手は「肇」を選ぶ。

「『肇』がしっくりきているのかな」。呼ばれるたびに名前を変えた実感がわき、「改名してよかった」と思う。

新型コロナウイルスの影響で大学の休みが続く今、赤池さんは1日の大半を音楽活動に費やしている。トランペットを習得してジャズやクラシックにも挑戦したが、今はクラブミュージックにのめり込んでいる。パソコンや専用の機器で曲を作り、仲間と組むバンドでボーカルをつとめる。重くて激しい「デスボイス」で歌い上げる技術には、自信がある。

いつか、バンドで成功したい。作曲家・編曲家としても活躍し、多くの人に自分の音楽を届けたい──。そう夢見て、ネット上に自作の曲や演奏映像を載せては、腕を磨く日々だ。

「名前を変えるなんて、ほんと、大したことないですよ。俺はまだ、何も成し遂げていない」

「肇」という字には、「入り口をあけて物事をはじめる」という意味もあるという。次は名前の奇抜さではなく、自分の実力で扉を開き、有名になってみせる。

「音楽の世界で、再びバズって(注目を集めて)みたいですね」

赤池肇さんは、にっこり笑って言った。

読売新聞社会部「あれから」取材班
よみうりしんぶんしゃかいぶあれからしゅざいはん

過去のニュースの当事者に改めて話を聞き、その人生をたどる人物企画「あれから」を担当。メンバーは社会部の若手記者が多い。人選にこだわり、取材期間は短くても3カ月。1年近くかけることもある。2020年2月にスタート。ネット配信でも大きな反響を呼び、連載継続中。

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