キラキラネーム「王子様」に決別した18歳のその後 母が名付けた理由は「私にとって王子様だから」
「王子は生きづらいだろうな」。両親の知人で、幼い頃から赤池さんを知る甲斐善光寺(甲府市)の僧侶・渡辺光順さんは、名前のことをずっと心配していた。
明るく、社交性もある赤池さんは、皆から愛されて育った。大人に交じってゲームをすると「僕は子どもだから」と順番を譲るなど大人びた面もあり、本人が築く人間関係には何の問題もなかった。
だが、「昭和町に王子様という名前の子どもがいるらしい」という「うわさ」は、渡辺さんのもとにも届いていた。インターネット上には、奇抜な名前を意味する「キラキラネーム」の代表例として掲載されていた。社会に出てからは苦労するだろう、という危惧はあった。
だから、高校生になった赤池さんから「名前、変えようと思うんだけど」と相談された時、「いいんじゃない」と答えた。
改名を伝えたときの母の反応
改名の時期は、高校卒業時と赤池さんは決めた。大学に行けば、新しい友人もできるだろう。いいタイミングだ。スマートフォンで「改名 やり方」と検索すると、15歳以上なら、親の同意がなくても自分の意志で名前を変えられることがわかった。
母に伝えたら残念そうな顔になって、しばらく口をきいてくれなかった。でも、最後は気持ちを尊重してくれたと思っている。
父は、「おまえの人生だ」と言ってくれた。
「名前、どーすっか?」
高校のクラスメートに相談すると、友人は手にしていた倫理の教科書をパラパラとめくって手を止めた。
「河上肇」。「貧乏物語」で知られる経済学者だ。
「はじめって感じの顔じゃね?」。友人の一押しに、不思議としっくりきた。漢字も格好いい。
「赤池肇って合うよな」。もう、「肇」以外は考えられなかった。渡辺さんに報告すると、「自分が良いと思う名前にすればいい」と背中を押してくれた。
「赤ちゃんが名前をもらうのとは違う。音や漢字も含めて、自分が気に入り、つつがなく生活できる名を選べばいい」と渡辺さんは思う。
戸籍上の名前は、家庭裁判所の許可があれば変えられる。赤池さんは甲府市内の家裁を一人で訪ね、職員から説明を受けた。
変更が認められるには、「名の変更をしないとその人の社会生活において支障をきたす」といった正当な理由が必要となる。例えば、「むずかしくて正確に読まれない」「異性とまぎらわしい」といった理由だ。
家裁には「名の変更許可申立書」と戸籍謄本などを提出。必要な費用は収入印紙800円分と、連絡用の郵便切手代のみだ。
「王子様」という名前は不便で不本意だと伝えると、職員は「申し立てをすれば通ると思うよ」と言ってくれた。