キラキラネーム「王子様」に決別した18歳のその後 母が名付けた理由は「私にとって王子様だから」

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地元のショッピングモールでは、まったく知らない人に「あれ、王子様だよ」と指をさされた。カラオケ店で会員登録をしようと本名の「赤池王子様」と書くと、偽名だと疑われたのだろう。あからさまに不審の目を向けられた。

なぜ「王子様」なのか。この名前を付けたのは、母親だ。学校の授業で自身の名前の由来を調べるという課題があって、かつて尋ねたことがある。

母はその時、「私の大事な息子という意味だよ。私にとっての王子様だから」と教えてくれた。

「改名しよう」と思ったきっかけ

〈子どもには、生まれた時から名前を持つ権利がある〉

1989年に国連で採択された子どもの権利条約は、そう説く。名前を付けることで他の人間と区別し、その人の人生が始まる。

名前は、生まれた時に誰かに付けてもらうもので、普通は自分では選べない。だから赤池さんも、途中まではあまり疑いなく、「王子様」という名前を受け入れてきた。

だが高校に入って、「名前とは」という問題に真剣に向き合うことになる。

新学期のクラスの自己紹介。自分の番で名乗ると、ひとりの女子生徒が噴き出した。しかも、その笑いが止まらない。中学までは、周りで笑い転げる人はいなかったのに──。

ただこの時、女子生徒に感じたのは怒りでも悲しみでもなく、共感だった。

「だって、変な名前って笑われて当然でしょう。王子様だもん」

そもそも王子というのは「役職」だ。なのに「様」が付いていること自体、おかしいと自分でも思った。

「よし、改名しよう」。そう思い立った。中学時代、人気漫画「こち亀」こと「こちら葛飾区亀有公園前派出所」を読んで、本名は変えられると知っていた。170巻の「改名くん」の巻。不運な男たちが名前を変えた後、宝くじが当たったり、女性にもてるようになったりして運気が上昇する、というドタバタ劇だ。

ストーリーそのものよりも、改名できるという社会のルールが心に刻まれた。

それに、これだけ名前がいちいち注目される状況には、もう耐えられなかった。変わった名前だからではない。

「単に親が付けた名前が珍しいというだけで目立つなんて、プライドが許さない。名を売るなら、自分の実力で勝負したい」。そのために、自分で自分の名付けをしようと心に決めた。

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