BA.1対応「オミクロンワクチン」打つ意味あるのか 日本は「BA.5」ワクチンを打つ機会を逃すのか?

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「緊急承認」制度はどうか? これは今年5月にアメリカの「緊急使用許可制度」(EUA)に倣って新設されたものだ。

この新制度では、「有効性」については発症率の違いなどの確実なデータでなくとも、抗体価の上がり方から有効性が「推定」できる場合、大規模な治験が不要となる場合もある。他方、「安全性」については従来どおりの治験が要求される(治験完了前でも申請は可能)。

有効性を、中和抗体価をもって評価することについては、現状においては合理性がある。すでに軽症・無症状のBA.5感染者が街にあふれている中で、厳密に未感染者だけを集めて発病予防効果を比較する臨床試験を実施するのは困難だからだ。

ただし、日本の製薬会社の開発スピードが遅く、タイミングが遅れたことで効果を実証できなかった部分がある。その実力不足に合わせて承認に必要なエビデンスのレベルを下げるような承認制度は、大いに疑問だ。ふたを開けてみれば薬剤やワクチンの効果がなかった、ということでは、むしろ国民の健康維持に不利に働く。

冬の第8波はBA.4.6?ケンタウロス?

さて、BA.5が秋までに収束するとして、次に世界を飲み込む変異種は何だろう? 現時点で世界が注視しているのが、英米で流行が始まっている「BA.4.6」と、インドでBA.2から派生した「BA.2.75」だ。

アメリカ疾病対策予防センター(CDC)によれば、同国内では8月27日時点でBA.5が依然88.7%を占めるものの、収束の兆しが見える。

他方、BA.4.6は、約3週間前からBA.4に代わって二番手となり、8月20日時点で6.3%に達した(前週5.3%)。アメリカ中央部・中西部の州では、BA.4.6が約 16%を占めるという(CIDRAP)。

またBA.2.75は、感染力や免疫回避力が高くBA.5との共通点もあることから、ギリシア神話の半人半牛になぞらえて「ケンタウロス株」とも呼ばれる。

BA.2.75の感染の広がりやすさはBA.1の1.13倍との報告があり、『Nature』も、BA.2.75にはヒトへの再感染を増強するBA.5と同じ変異が含まれることを指摘している。

だが私は、「BA.4.6」「BA.2.75」いずれの説にも懐疑的だ。週ごとに倍増の勢いで感染が広がったBA.5に比べれば、どちらもだいぶ大人しい。

もっと別の、新たな変異種がふと現れて一気にBA.5と置き替わる、というのも十分ありうるシナリオだ。

いずれにしても、新たな変異種を必要以上に怖がることはない。過去の感染やワクチン接種が完全に力を失うことはない。オリジナルの武漢型ワクチンですら、3回接種によって高い重症化予防効果が長期にわたって続くことも知られている。また、新型コロナも「ウイルスあるある」に従って、次第に弱毒化して普通の風邪ウイルス並みの毒性になっていくことだろう。

withコロナは決して生易しくはないけれど、混沌とした今の状況がずっと続くわけでもない。私自身は医師として、どんな変異種が現れても、目の前の患者さんに全力で向き合い続けていくだけだ。

久住 英二 内科医・血液専門医

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くすみ えいじ / Eiji Kusumi

1999年新潟大学医学部卒業。内科医、とくに血液内科と旅行医学が専門。虎の門病院で初期研修ののち、白血病など血液のがんを治療する専門医を取得。血液の病気をはじめ、感染症やワクチン、海外での病気にも詳しい。

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