「火星植民地」から思考実験する未来の政治と経済 気候変動に対する人類全体の生存をかけた選択
これをより端的なかたちで示したのが、2015年にアメリカで公開されたSF映画「オデッセイ」(原題『The Martian=火星人』)だ。NASAが火星探査のために送り出した6人の宇宙飛行士は、火星上での任務遂行途中で大規模な砂嵐に襲われる。任務放棄が決定され、皆は火星離脱のために急いでロケットに向かう。ところがクルーの1人のマーク・ワトニーが、折れて飛んできたアンテナの直撃を受けて行方不明になる。残りの5名はワトニーが死亡したと判断して火星を離陸し、地球への帰還の途に就く。
しかし、彼は生きていて無事だった。ひとり取り残されたことを知ったワトニーは、植物学者そして宇宙飛行士としての持てる知識と知恵とスキル、そして手元にあるテクノロジーと入手可能な資源を総動員して、生存の工夫を始める。水や酸素を確保し、食糧であるジャガイモの栽培を行い、遂には地球との交信にも成功して、最後は無事に地球への帰還を果たす。
世界レベルで「両利きの経営」が求められる
ワトニーの目的が、有限の環境下での持続可能性確保に向けた再生産の維持と拡大であることは、火星植民地の例とまったく同じだ。そしてそれは、宇宙船地球号の持続可能性に関しても変わらない。
大きく異なるのは、ワトニーや火星植民地は、ベンチャー企業のように何もないところに新たに絵を描けるのに対して、この世界は、既存企業と同じく、現存するさまざまな組織や仕組み、すなわち国、企業、政治、経済間の利害を調整しながらそちらに向かわなければならないことだ。つまり、世界レベルで「両利きの経営」を行うという離れ業が求められている。
オックスフォード大学の地理学者が書いた書籍『減速する素晴らしき世界』(ダニー・ドーリング著)では、ほとんどすべてのモノやコトには加速した後に減速が訪れるとしており、人口増加、経済成長、債務拡大、新しいデータの増大などはいずれスローダウンすると説く。しかし、同書でも気温上昇はその例外とされている。
2019年に英国の大学が発表したレポートによれば、2014年のアメリカ軍の二酸化炭素排出量は、ルーマニア1国(世界45位)のそれに匹敵していたという。国益に基づく軍事活動は、温暖化対応面では「高くつく」のだ。
SDGsの13番目の目標である「気候変動に具体的な対策を」は、個々の国々の自助だけではなく、世界全体の協調した努力によって、はじめて達成に向かう道が見えてくるだろう。
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