「火星植民地」から思考実験する未来の政治と経済 気候変動に対する人類全体の生存をかけた選択
そのためには、個々の国家の国益以上に、地球規模でのガバナンスが発揮され、政策協調が行われることが求められる可能性が高い。現在これに最も近い組織は国際連合であり、その国連は2015年にSDGs(Sustainable Development Goals)を採択し、2030年までに世界的に達成すべき17の目標と169の達成基準を示した。このことは、地球レベルでの重要課題について国際協力が実現する可能性を示している。
しかしながら、現実の国際連合は、必ずしもそのように機能しているとは言えない。国連の主たる設立目的は、次の世界大戦発生の防止であり、そのために安全保障理事会を最高位の意思決定機関に置いている。その中で第2次世界大戦の戦勝国である5カ国が、常任理事国として拒否権を保有している。そしてその拒否権は、自国の国益に反する議案に対して発動されることで、結果的に国益を擁護することにつながっていることは周知のとおりだ。
だが、戦争が国益の相反によって国家間で起こるものであるのに対して、気候変動を含むSDGsの17の目標は、国益を超えて人類が実現すべき普遍的なものだ。こうした共通目標の実現のための提案に対しては、拒否権が持つ非生産的な側面を制限することが必要になるだろう。
火星植民地で大事なものは利益ではない
国益のない世界での全体組織の運営がどのようなものになるべきかについては、前出の『テクノソーシャリズムの世紀』で、火星植民地が成功裡に設立されて100万人が居住するようになった場合、そこでの経済がどのようなものになるかについて述べられている。
火星植民地で最も重要になるのは、資本主義が求める利益とリターンではなく、持続可能性と自律的繁栄である。火星の自然環境下では人間は生きられないため、生存可能な環境を作り上げてそれを維持し、拡大していかなければならない。そこでの価値は、富の蓄積ではなく、消費するよりも多くの空気と水、食糧そしてエネルギーなどの資源を生みだすことである。つまり、資本主義とはまったく異なるOS上で経済が回ることになる。
また政治の目的は、私利や特定集団の利益拡大のために権力を握り、他人の上に立ってそれを行使するのではなく、コロニー全体利益の増進に資することになるだろう。
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