だが、報告書によると、ナースコールを押しても、看護師によっては忙しさのあまりイライラしていたり、皮肉を言われたり、長時間待たされたり(排便後2時間も、そのまま待たされた人もいた)、あるいは、手の届かないところにナースコールを置かれたりしていた。このため、回答者の約7割が「ナースコールを押すことをためらう」と回答していた。
また、自分のタイミングで排尿できる人は、回答者の25%だった。「オムツを替える時間が5時、13時、19時と決まっている」という病院もあった。排泄後はにおいや不快感があるだけでなく、不衛生な状況で生じる感染症への対策面からもできるだけ早く対応したほうがいいが、排便後の処理までの時間は回答者によって10~200分まで差があった。病院によって、対応の差がとても大きいことが明らかになった。
こうした調査結果をみても、患者への人権侵害が起きているといっても過言ではない。
看護師や介護士の顔色を見ながら
さらに、入浴は身体の清潔を保つためだけでなく、ストレス解消やリラックスするための時間でもあるが、回答者の9割弱が週2回しか入れず、祝日が重なると週1回になる病院もあった。決められた時間の中で大勢の患者の入浴を介助する必要があることから、「トータル10分ですませるように言われる」「入浴前、ベッド上で服を脱いだ状態で布団をかぶって待っている」という回答もあった。
生活全体で患者が看護師や介護士の顔色をうかがいながら生活している様子がよくわかる。
京都市の「日本自立生活センター(以下、JCIL)」で活動する大藪光俊さん(28)、岡山祐美(ゆみ)さん(42)は、この調査に参加している。現在、地域で重度訪問介護(24時間連続)を利用しながら一人暮らしをする。
大藪さんはこう説明する。
「筋ジス病棟は、診療報酬の『障害者施設等入院基本料』の最も手厚い人員基準7(患者)対1(看護職員)ですが、日常的に医療的ケアや介護が必要な患者が多数入院していることから病棟の実態に合っておらず、職員1人当たりの業務負担が大きくなっています。多忙なうえ、業務の効率化が求められるため、安全管理やリスク回避として患者の生活が不適切に制限されています」
調査結果やインタビューからは、さらに、女性ならではの深刻な状況も浮かび上がった。
女性回答者の中には「生理のとき、排泄介助の男性の介護職員がぎょっとしている姿を見て、恥ずかしくなった」「子どもの頃のあれは、わいせつ行為だったかもしれないと、大人になってから認識した」と話す人もいたからだ。
たとえ、性的虐待を受けていなくても、本人の意思に反して異性の介助が繰り返されることは、虐待防止法では心理的虐待に当たる。この女性特有の問題を分析した岡山さんは、こう話す。
「当事者は性的虐待を受けている感覚にもなっています。しかし、声を上げると『介護者は何とも思っていないですよ。そんなことを言うのは、あなたのほうがおかしい』と言われます」
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