ドローンを操縦した梶山さんは3歳のとき、筋ジストロフィー(デュシェンヌ型)と診断され、小学3年生から車いすで生活している。
テストフライトでは記者から「ドローンを操縦して、どんなことをしてみたいか」と質問され、「人手不足の地域で、重機を動かして雪かきをしてみたい」と答えた。その理由について、「歩けていたときのことは全然覚えていないので、体を動かすことには憧れる。だから、テクノロジーを使って体を動かす仕事をしてみたい」と、後日の取材で話した。
梶山さんは生活のすべてで介助が必要なため、25歳から「重度訪問介護(24時間連続)」を受けながら、一人暮らしをしている。一人暮らしを決意した理由は、母親が入院することになったからだった。生活上の制限の多い施設に入所したくない一心で、大きな不安を抱えながら、実家を出てヘルパーと過ごすことになった。今年で12年目になる。
地域での一人暮らしで、人生の自由を手に入れた。夜中までオンラインゲームに夢中になったり、オールナイトでテクノ音楽ライブを楽しんだり、飛行機に乗って旅に行ったりもした。
しかし、梶山さんのように実家や入所施設、病院を出て、地域で一人暮らしをする重度障害のある人は、ほんの一握りだ。
人生の半分以上を病棟で過ごす人も
実は、筋ジストロフィーや筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの病気で、生活上、つねに介護・介助を必要としている人のなかには、病院の筋ジストロフィー病棟(以下、筋ジス病棟)で長期入院を余儀なくされている人もいる。人生の半分以上を筋ジス病棟で過ごす人もいる。
筋ジス病棟は、1960年代から全国の旧国立療養所結核病棟を転用することで始まった。当時は子どもと大人合わせて3万床で、子どもに義務教育を受けさせるため、病棟から廊下続きで養護学校が併設されていた。現在でも国立病院機構26病院で約2400床が残っている。
これまで、筋ジス病棟の実態はあまり社会に知られていなかったが、昨年、「筋ジス病棟の未来を考えるプロジェクト」による「病棟実態調査報告書」(⋆)が公表された。
このプロジェクトは障害のある人が地域で暮らすことを推進する組織「自立生活センター」を中心に、研究者やジャーナリスト、医療関係者、法曹関係者などが集まり、主に、国立病院機構筋ジス病棟に入院する人のために活動している。
報告書の特徴は、重度障害のある人が筋ジス病棟へ出向き、直接、入院患者から聞き取りをしたことだ。お互いに語り合ったことの中には、見過ごすことができない「人間らしい生活とは、ほど遠い状態」とまで報告書で指摘される事例もあった。
例えば、重度障害のある人は体を思うように動かせないため、「体が痛い」「体がかゆい」「のどが渇いた」「排泄したい」などだけでなく、日常で欠かせないパソコンの設定、趣味などを楽しみたいときでも介助を必要とする。
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