商売がうまくない人はヒトの欲望をわかってない 世界のマーケターはなぜ「本能」に注目するのか

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ある企業は、男性に向けた美容サービスの立ち上げを計画し、大手のリサーチ会社にデータ収集を頼んでいました。美容サービスを使いそうな男性にインタビューを行い、彼らがどのような考え方を持っているのかを調べるのが目的です。

そして3カ月後、リサーチの報告会に呼ばれた筆者は、結果を見て驚かされます。リサーチ会社が数十枚におよぶ資料を出してきたところまでは良かったものの、そこには「若い人ほど見た目に気を配る」や「中年男性ほど毛髪の悩みが多い」「女性は美意識が高い」といった平凡な内容ばかりが並んでいたからです。依頼した企業の社長はいらだちを隠せず、報告会は収穫ゼロで終わりました。

といっても、これはリサーチ会社だけが悪いわけではありません。何の仮説も立てずに「男性の美容意識とは?」とだけ依頼したら、平凡な情報しか上がってこないのは当たり前の話。「最近どう?」とあいまいな質問をされても返事に困るのと同じです。

「モノを売る」ことの本質

この事例と同じように、顧客のリサーチを行う際に、「とりあえずインタビューをしよう」や「WEBアンケートをしよう」といったように、何も考えずにユーザーの情報を集めようとするケースをよく見かけます。しかし、あらじめ一定の仮説を立てておかねば、そもそもどんなデータを集めていいのかすらわかりません。

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そこで、進化論的なアプローチの出番です。先にも見たとおり、「仮説の立案」は進化論的なアプローチの得意分野であり、私たちにヒトの欲望の見取図を与えてくれます。その結果、「どのデータを集めるべきか?」や「このデータは何を意味するか?」といった判断をより明確にしてくれるのです。

ヒトの欲望がどのような場面で発動し、どのように駆動するのかがわからなければ、商売は成り立ちません。モノを売る行為とは、すなわち「私たちの欲望はどこから来たのか?」を知ることにほかならないからです。

この点において、進化論的なアプローチは、私たちに人間が持つ欲望のありかを示し、進むべき道を伝える羅針盤のような働きをしてくれます。その行く先が絶対に正解とは言わないものの、徒手空拳でのぞむよりも確実に精度の高い答えを出してくれるはずです。

鈴木 祐 サイエンスライター

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すずき ゆう / Yu Suzuki

1976年生まれ、慶應義塾大学SFC卒業後、出版社勤務を経て独立。10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門医へのインタビューを重ねながら、現在はヘルスケアや生産性向上をテーマとした書籍や雑誌の執筆を手がける。自身のブログ「パレオな男」で心理、健康、科学に関する最新の知見を紹介し続け、月間250万PVを達成。近年はヘルスケア企業などを中心に、科学的なエビデンスの見分け方などを伝える講演なども行っている。著書に『最高の体調』(クロスメディア・パブリッシング)、『ヤバい集中力』(SBクリエイティブ)他多数。

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