商売がうまくない人はヒトの欲望をわかってない 世界のマーケターはなぜ「本能」に注目するのか

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▼メリット2:「より刺さる宣伝」を考えやすくなる

自分の商品を売りたいと思ったとき、多くの人は、身近なレベルで消費者の行動を理解したがります。ユーザーの好み、感情、性格といった至近な理由をもとに消費者の行動を予測し、販売戦略を立てようとするのです。

たとえば、パコ・アンダーヒルの著作『なぜこの店で買ってしまうのか ショッピングの科学』(早川書房)では、顧客行動分析という研究テクニックを使い、「目の高さに置いた商品が売れる」や「人が多くて狭い売場では、大半の客が買い物を諦める」といった消費者の行動をあきらかにしました。これらの知見は徹底したフィールドワークから得られたものであり、売り手にとって大いに参考になります。

ただし、それと同時に、ユーザーの直接的な行動だけにフォーカスしていたら、もっと効果的な売り方を見過ごしかねないのも事実です。

普通は身近な感覚だけを頼りに答えを探す

高価な有機野菜を買った人に「なぜそのサービスを選んだのか?」と尋ねたとします。すると、たいていの人は「健康的だから」や「安全性が高いから」といった答えを返してくるでしょう。「有機野菜を欲しくなる本能とは?」などと考える人はおらず、普通は身近な感覚だけを頼りに答えを探すものだからです。

もしこの回答を素直に信じたとしたら、「健康な体を手に入れる」や「安心で安全な食卓を」といった売り文句がいちばんに浮かび、それ以上の案は出にくくなるでしょう。これらの売り文句が必ずしも誤りだとは言わないものの、消費者の至近な反応だけを手がかりにするのは間違いのもとです。

一方で進化論的なアプローチは、私たちがモノを買う理由の奥の奥をあきらかにし、その後の消費行動の変化までも予測します。そのぶんだけ販売戦略の幅が広がるのは確実でしょう。

▼メリット 3:データの使い方がうまくなる

ここ十数年で、データ分析を駆使したマーケティングが急速に広まったのはご存じでしょう。デジタルメディアでは膨大な計算能力を駆使したアルゴリズムが使われ、プランニングでは計量経済学が採用され、メディアの広告枠選びではオプティマイザーが活躍し、いずれも高度な数学手法が用いられています。

そう聞くといかにも信頼できそうですが、残念ながらそう簡単に話は進みません。データ分析を使いこなすには、調べる側が確固たる仮説を持っていなければならないからです。

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