実にもっともな疑問ですが、近年の研究のおかげで、幸いにも進化論を使ったアプローチによる消費行動の予測力の高さが明らかになりつつあります。簡単に言えば、私たちが祖先から受け継いだ本能は、現代人の買い物にも影響をおよぼしていることがわかってきたのです。
いちばんわかりやすいのは“高級品”に関する事例でしょう。10万円のシャツや100万円の時計、1000万円の指輪など、世の中にはいくつもの高級品が存在しますが、私たちがこのような商品を購入する背景には、どのようなモチベーションがあるのでしょうか?
当然ながら、10万円のシャツが1万円のシャツよりも機能が10倍も高いことはないでしょうし、デザインが10倍良いわけでもないでしょう。機能とデザインで説明ができないのなら、何か他のところに理由があると考えるべきです。
なかには、がんばって買ったのに使わないブランドのバッグや、めったに着ないオーダーメイドのスーツなど、不要な高級品に手を出して失敗した経験がある人は少なくないはずです。このような失敗は、いったいなぜ起きるのでしょうか?
有名人が紹介していたから、たまたま衝動買いしたくなったから、他人に見栄を張りたいから――。
表面的な理由はいくつも浮かぶでしょうが、ここで終わってしまえば消費者の理解は深まりません。こんな時、進化論のアプローチでは、「高級品を買いたくなる本能とは何だろうか?」と疑問を立て、その上で、次のような仮説を立てます。
人々が高級品を買うのは、性的シグナリングのため?
「性的シグナリング」 は、「私は恋人として理想的な存在だ」と周囲にアピールする行為のことです。
クジャクのオスが鮮やかな飾り羽でメスを誘い、カメレオンが樹上のダンスでパートナーの気を引くのは、いずれも自分の優秀さを相手に伝え、繁殖のチャンスを増やすための性的シグナリングの一種だと言えます。
この種の行動はあらゆる哺乳類に見られるもので、人類だけが例外だと考えるのは自然ではありません。原始時代にはブランド品など存在しませんでしたが、現代人が高級品をクジャクの飾り羽と同じように使っている可能性は高いでしょう。
ただし、これだけではまだ「それっぽい説明」に過ぎません。性的シグナリングが動物界でよくある現象だと言っても、この仮説が現実どうかを確かめない限り、進化論的なアプローチが有効だとは言えないでしょう。
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