日本も無視できぬ「ウクライナ代理出産」深刻問題 新型コロナとロシアの侵攻で子を引き取れない

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では、日本での代理出産はどうなっているのだろうか。

日本には代理出産を禁じる法的な規制はないが、日本産科婦人科学会は2003年、代理出産は「認められない」、あっせんも「行ってはならない」とする見解を表明した。主な理由は以下のとおりだ。

・生まれてくる子の福祉を最優先すべきである
・(代理母に)身体的危険性・精神的負担を伴う
・家族関係を複雑にする
・倫理的に社会全体が許容していると認められない

つまり、代理出産は「人間の尊厳を危うくする」ものであり、「経済的に弱い立場にある女性を搾取の対象とし、ひいては実質的に児童の売買といえる事態が生じかねない」とする。

生殖補助医療をどこまで認めるのか

日本学術会議生殖補助医療の在り方検討委員会は2008年、代理出産について「法律による規制が必要であり、それに基づき原則禁止とすることが望ましい」とする提言をまとめた。

2020年12月には生殖補助医療によって生まれた子どもの親子関係を定めた民法特例法が成立した。出自を知る権利や代理出産の是非などの課題について「おおむね2年」で検討すると付則で定めている。

前出の橳島さんは、次のように指摘する。

「(代理出産などの)生殖補助医療をどこまで認めるのか、社会で議論したうえで決めることが必要です。体外受精で出産に至る確率は15~20%程度で、多額の金銭を払っても子どもが生まれるとはかぎらない。そもそも子どもはお金を出して、人を雇って得るものなのか。選択肢が増えると、かえって当事者を追い詰めることになりかねません」

森本 修代 元新聞記者

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もりもと のぶよ / Nobuyo Morimoto

1969年熊本県生まれ。静岡県立大学在学中にフィリピン・クラブを取材して執筆した『ハーフ・フィリピーナ』(潮出版社、1996年)で第15回潮賞ノンフィクション部門優秀作。1993年熊本日日新聞社入社、社会部、宇土支局、編集本部、文化生活部などを経て2022年5月退社。著書に『赤ちゃんポストの真実』(小学館)。

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