考えてもみてほしい――その客たちは、ほかの客たちよりも多い金額を払っただけでなく、価格交渉についても美術商に対しても、好印象を抱いたのだ。それも、笑顔とちょっとしたジョークのおかげで。
研究者のテリー・カーツバーグ、チャールズ・ネイキン、リューバ・ベルキンによるべつの交渉実験では、参加者たちはペアを組み、リクルーター役と就職希望者役に割り振られた。
そして雇用時の待遇についてメールで交渉する際、それぞれの待遇条件(給与、ボーナス、保険の保障内容、休暇等)ごとに、就職希望者にはポイントが付与される。なるべく多くのポイントを獲得して、交渉を終わらせるのが目的だ。
実験は「ユーモアあり」と「ユーモアなし」の異なる設定のもとで行われ、「ユーモアあり」の場合、2人組のどちらか(リクルーター役あるいは就職希望者役)が、実験前にコマ割り漫画『ディルバート』〔同名の技術者が主人公。管理的な職場を皮肉ったユーモアで知られる〕の職場での交渉を描いた漫画を読まされる。
すると、実験前に漫画を読んだ人たちは、そうでない人たちよりも平均で33%多くポイントを獲得した。
さらに、「ユーモアあり」で交渉した2人組は、「ユーモアなし」で交渉した人組に比べて、交渉相手に対する信頼度が31%高く、交渉の成り行きについての満足度も16%高かったことがわかった。
ユーモアは魔法のような力で警戒心を解く。ほんのちょっとした陽気なジェスチャーでさえ、交渉の場では大きな効果を発揮するのは、人間的なふれあいが感じられるせいもあるだろう。
人と人とのつながりが生まれることによって、お互いに望むものを手に入れやすくなることが多いのだ。
ユーモアは相手の記憶に残りやすい
ユーモアには記憶を助ける効果もある。ユーモアを感じると、脳の報酬センターに神経伝達物質のドーパミンが大量に分泌され、集中力が高まり、記憶の長期保持が可能になる。
言い換えれば、ユーモアを使うことによってあなたの発言は興味深く感じられ、相手の記憶に残りやすくなるのだ。