セドラチェクvs斎藤幸平「成長は一体、何の為?」 資本主義での競争にどこまで意義を見出せるか

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斎藤:私が「脱成長」を主張するのは、そのほうがより良い未来をもたらす可能性があるからです。2年ごとに新しいスマートフォンは手に入らないし、休暇のたびに海外旅行はできないかもしれませんが、基本サービスや生活必需品の一部は保障されるので、馬車馬のように働かなければならないという心理的プレッシャーから解放され、趣味や家族・友人との交流に時間を費やす豊かな生活を送れるようになります。

経済成長を追い求める今の資本主義では、週に40時間以上働いているほとんどの人々が、その可能性を奪われています。

休暇中でさえ忙しい日本人

セドラチェク:その点では完全に同意します。特に日本社会に関してはそうです。ヨーロッパから見ると日本人は一生懸命働き過ぎです。

日本人はあまり遊んでいません。私は論文に「資本主義は過労死で終わるかもしれない」と書いたことがあります。食べる物がないからではなく、働き過ぎて死んでしまうのです。私はそれを恐れています。

BS1スペシャル 欲望の資本主義2022 成長と分配のジレンマを越えて」は、NHK BS1にて2022年8月19日9:00~再放送予定(写真:NHK)

チェコは日本よりも成長率が低く、GDPも日本より少ないかもしれませんが、日本のような負債はありません。これが成長資本主義の特徴です。成長するために借金をするのです。

大した資産はないけれど借金もない人と、銀行で300万ドル借りてきて現金をたくさん持っている人のどちらが金持ちかを比較しているようなものです。比べるのは馬鹿げています。これが、成長資本主義の愚かなところです。

文化的視点から見ても、私は、日本の人々がどれほど忙しいか知っています。休暇中でさえ、働いているときと同じくらい忙しく、次から次へと移動しますね。

私たちヨーロッパ人は、休暇と言えば、パイプを吸っているだけで、何もしません。そういう時間が私たちには必要です。私は、このようなヨーロッパモデルが世界中に浸透していくことを願っています。働きつつも過労死しない社会です。

丸山 俊一 NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサー/立教大学特任教授/東京藝術大学客員教授

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まるやま しゅんいち / Shunichi Maruyama

1962年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。「欲望の資本主義」「世界サブカルチャー史 欲望の系譜」「欲望の時代の哲学」などの「欲望」シリーズのほか、「ネコメンタリー 猫も、杓子も。」「地球タクシー」などをプロデュース。過去に「英語でしゃべらナイト」「爆笑問題のニッポンの教養」「ソクラテスの人事」「仕事ハッケン伝」「ニッポン戦後サブカルチャー史」「ニッポンのジレンマ」「人間ってナンだ?超AI入門」ほか数多くの異色教養エンターテインメント、ドキュメントを企画開発。著書に『14歳からの資本主義』『14歳からの個人主義』『働く悩みは「経済学」で答えが見つかる』『結論は出さなくていい』など。

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