逆に、物価が上がる中で、賃金が十分上がらなければ、生活は苦しくなります。もうひとつは、物価の上昇幅が「緩やか」なことです。賃金の上昇幅が大きすぎると、企業のコストが急増し、それが価格に反映され、ある段階で物価上昇が制御できなくなります。いわゆる「ハイパーインフレ」になると、通貨が信用を失い、経済自体が大混乱します。
物価上昇を上回る賃金上昇を伴い、かつ、物価の上昇幅が緩やかであれば、持続的な経済成長につながる「よいインフレ」ですが、物価が賃金を上回って上がる場合や、制御不能になりかねない物価の急上昇は「悪いインフレ」です。
アメリカでは平均時給が史上最高に
ここで、日本とアメリカを比較してみましょう。今年6月、アメリカの消費者物価上昇率が40年ぶりに9%を超えました。大きな要因は、世界全体に影響を及ぼしている「ウクライナ紛争に伴うエネルギー・食糧価格の上昇」で、食料品は前年同月比10.4%、ガソリンは同59.9%上昇しました。さらに、アメリカの物価を押し上げているのが「賃金上昇」です。
新型コロナから本格的に立ち直りつつあるアメリカでは、労働需給が逼迫し、失業率は新型コロナ拡大前の水準にまで改善し、平均時給も史上初めて32㌦を超えました。それでも賃金上昇が物価上昇に追いついておらず、今後も賃金が上がる可能性が高いので、インフレのさらなる加速が懸念されています。
一方の日本には、アメリカにはないインフレ要因があります。「円安」です。円ドル相場は、最近、やや円高に戻していますが、それでも、昨年の平均レート(109.75円)に比べると大幅な円安です。エネルギー・食糧価格は基本的に「ドル建て」なので、日本では「ドル価格の上昇」に、円安分の「円換算価格の上昇」が加わります。「賃金」はアメリカほど上がっていません。
ただ、物価高に追いついていない状況は同じです。毎月勤労統計によると、労働者一人あたりの現金給与総額は、今年6月まで、5カ月連続で前年同月比増ですが、物価上昇分を差し引いた実質賃金は3カ月連続で減少しています。
6月の日本の消費者物価上昇率は2.2%と、円安という付加要因があっても、長年のデフレ下で価格引き上げがしにくくなっているといった構造的な要因などが影響し、アメリカよりも低い水準にとどまっていますが、十分な賃金上昇を伴っていないため、国民の購買力は低下し、生活は苦しくなっています。
上昇率やその要因に違いはあるものの、日米はともに「悪いインフレ」に直面しています。では、それぞれ、どう対応しているのでしょうか。世界的な物価高騰の主要因である「ウクライナ紛争」解決への打ち手はなかなか見えませんが、アメリカは、国内の大きなインフレ要因である「賃上げ圧力」の抑制に向け、大幅な利上げを続けています。
実際に効果があがるかどうかは結果をみるまで判りませんが、景気失速のリスクも抱えながら、大胆かつ機動的に金融政策を駆使しています。
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