一方、日本はどうでしょうか。今回の物価高騰に対し「政府・日銀は何もしていない」といった批判もありますが、「何もできない」といったほうが正確です。
円安是正については、そもそも、金融政策で為替レートに影響を及ぼすことができるかどうかについて議論があります。しかし停滞する日本経済の現状などを踏まえれば、金融引き締め政策への転換はできません。日米金利差の観点から趨勢的な「円安」を回避し続けることは難しいでしょう。
物価高対策をとれるとすれば「補助金」の類いでしょうが、債務が積み上がり、財政余力の小さい政府が規模感のある効果的な政策を実施することは困難です。大規模な税収減となる消費税減税などはもちろん無理です。大幅な賃上げも、景気が停滞する中で無理強いすることはできません。
こう考えると、アメリカは実施している政策が有効に機能すれば、経済や物価が安定軌道に戻ることが期待できますが、日本は打ち手がなく「放置」状態なので、現状の「悪いインフレ」が長期化することも覚悟しておくべきでしょう。
仮に、ウクライナ紛争の解決など、外部要因が解消し、物価高がおさまったとしても、今も、長年続いたデフレの要因である国内の「需要不足」という構造的な問題は解決されていません。再び「デフレ」に戻り、経済停滞がさらに長期化する可能性も懸念されます。
もはや将棋でいえば「詰み」に近い
新型コロナのときと同じく、今回の物価高騰局面でも「大きな経済変動が起こっても、政府・日銀がとれる政策が非常に限定されている」ことが明らかになりました。将棋でいえば「詰み」に近いかもしれません。
アメリカのみならず、欧州諸国や中国も、国内の景気変動や物価高などに対して、機動的かつ大胆な財政・金融政策を打ち出していますが、今の日本はそれができません。
その背景には、GDPの250%を超える政府債務残高や、常態化した「異次元の金融緩和」など、これまでの政策により生じた大きな「歪み」があります。
私たち国民ひとりひとりは、物価高に対して「節約」しか生活を守る手段がありません。一方で、政治や政策により関心を持ち、日本経済が抱える「本質的な課題」と「中長期的かつ抜本的な対応」について、しっかりとした議論がなされ、適切な政策が実行されるよういろいろな手段で働きかけていくことはできます。それが将来をよいものとする唯一の道かもしれません。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら