33歳がんで逝った男が投じた闘病記への重い一石 2013年に消失した痕跡が2021年に復活した理由

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しかし、2005年に入ってから、ネットに上がる奥山さんの声は徐々に少なくなっていく。TEKNIXに残る日記は2月26日付が最終だ。しかし、アップしたのは3月末頃で、更新までに1カ月近いラグが発生していた。

<夜、ガンエヴォのゲラをファックスで戻す。再校なので7枚ほどしかない。まあ、それでも7枚はあるわけだが。
その後、クスリを誤飲してしまい、ひどくむせる。なんか、もう飲むクスリが多すぎるのだ。ホントに死ぬかと思うくらい咳が出て、水も吐きまくった。1人で孤独死を迎えるとしたら、きっとこういう状態なんだろうと思った。
一気に体調がおかしくなり、ベッドに寝たきりになる。こんな簡単なことで、あっという間に体調がおかしくなってしまうのだ。>
(2005年2月26日「孤独死」/奥山のオルタナティヴ日記/Internet Archive)

その後はブログの更新に集中した。すでにがん発覚時に告知された「余命2年」は過ぎている。「あとは本当に個体差の世界」と達観し、自身の現状を淡々と伝える。

<地獄絵図とかに出てくる「餓鬼」っていうのがいると思うのだが、アレのような体型になっているのだ。手足は半分ぐらいにやせ細っているのに、まるで妊婦のように腹だけせり出している。へそなんか内側から押し出されてフラットな状態になっている、いわゆる「カエル腹」というヤツだ。
(略)
別に弱音を吐きたいとか、お涙頂戴とかを展開したい訳ではないというのはもう分かってもらえていると思う。「地震の死傷者○○人」とか「交通事故死○○人」とかの情報を見て泣く人はいても「お涙頂戴」とは呼ばないよね。オレも「死傷者のデータ」みたいな感じでなるべく客観視して書いたつもりだ。お涙頂戴と呼んだり、泣いたりするのは読者の自由だ。
まだ、生きているから死者としてカウントできないだけの話で。>
(2005年3月25日「罠・餓鬼・麻薬 下」/32歳ガン漂流エヴォリューション/Internet Archive)

最終投稿は『ヴァニシングポイント』が売り出された2日後のものだった。

<死にたくないな。
書店で会いたい。
本屋でセットで買ってくれ。>
(2005年4月16日「小説」/32歳ガン漂流エヴォリューション/Internet Archive)

亡くなったのは翌日の17日。数日後に牧野出版の担当者が訃報を載せ、その数日後に奥山さんの母が読者にお別れのあいさつをしてブログを締めた。以後、TEKNIXも含めて更新はない。

亡き親友の遺産を保護したい

奥山さんの4冊目の著作となる『33歳ガン漂流ラスト・イグジット』は、2005年7月に牧野出版から刊行された。2005年元旦から最終更新までの日記やブログを収録したものだが、本編の後に両親それぞれの寄稿がある。そのなかに、母・章子さんに語る奥山さんの言葉がつづられている。

次ページ「だから俺は本を書いて残すんだ。忘れられないように」
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