英国教授が「世界の停滞は良いこと」と言う深い訳 成長が減速した先に待ち受ける安定した世界

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スローダウンが進むと、さまざまなことが大加速化が起こる前には当たり前だった状態に戻っていくだろう。1つ例をあげると、物価は世界規模で安定するようになると考えられる。将来、物価がいまよりも安定するのであれば、インフレを起こす必要はない。私たちのひ孫は、60歳になったときのビールの値段が21歳になったばかりのときの値段と同じかもしれない。

そんな世界では、「投資」で簡単に大金を稼ぐことはできなくなっているに違いない。過去に投資で稼げたのは、その後に人口が増えたことが大きい。たとえば、私は将来値上がりすると見込んで、借金して家を建てていたとしよう。だが、その後に人口が減ってしまうと、家が値上がりすることはたぶんない。

投機は完全に失敗するだろう。私が将来、投資で大もうけすることはない。しかし、ほかの人が食い物にされることもない。ここはきわめて重要な点だ。

格差社会もなくなる

人口の減速が始まると、深刻な経済格差も続かなくなる。人口が収縮し高齢化していけば、お金を稼ぐのはいまよりずっと難しくなる。さらに、物事が変化しなくなるので、人は賢くもなるだろうし、どんどん複雑になる「最先端」で「最新」の消費財を次々に投入して、消費者をカモにするのも難しくなるかもしれない。技術革新がスローダウンすると、新しく生み出される革新的なモノやサービスが減ることになるのだとしたら、なおさらだ。

社会、経済、政治、人口動態の変化が加速すれば、市場は拡大し続ける。ただそれだけの理由でうまくいった販売戦術は、スローダウンが始まると、以前のような利益を生み出さなくなるだろう。スローダウン後は特にそうだ。ハイテク企業が毎日投入する広告が大幅に増えているのには、そういった理由もある。

私たち全員が集団として賢くなるので、それほど必要のない商品――これが必要なんだと思い込まされるかもしれないが、手に入れてもウェルビーイングは高まらない商品を売る会社は、ますます必死になっている。

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