収束見えぬウクライナ侵攻で存在感増す国の正体 ロシアと西側諸国の対立は経済消耗戦の様相

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トルコは北欧2カ国のNATO加盟に当初、難色を示した。ロシアへの配慮も想像される。トルコはNATOと北欧2カ国に対して、「テロ組織」とみなすクルディスタン労働者党(PKK)などの支援打ち切り、スウェーデンが保護する過激派テロリストの身柄引き渡しや、トルコへの武器販売の制限解除などをのませ、共同覚書に最終的に署名した。

クルド問題は国内の民族主義勢力の支持を得るためのものだが、スウェーデンの対トルコ武器禁輸措置を解除させることも重要だった。シリア北部のクルド人民防衛隊(YPG)をめぐるトルコによる越境作戦に対して2019年から科された同措置だったが、ウクライナ危機を受け、トルコは軍事力増強を急いでいる。

トルコが2019年、ロシアから地対空ミサイルS400を導入したことで、アメリカはステルス戦闘機F35のトルコへの売却を中止したが、北欧2カ国のNATO加盟を後押しするアメリカに対して、トルコがF35の代わりにF16の供与を求め、アメリカ側は今、前向きに協議を続けている。

プーチン氏と会談したエルドアン氏

ウクライナ危機で激変する安全保障環境の中で、トルコはしたたかに対ロシア、対EU、そして対中東で存在感を増す動きを続けている。7月に入り、エルドアン氏はイランを訪問したプーチン氏と会談。対ロシア外交で焦る西側諸国の足元を見ながら、経済、軍事力強化にも動いている。今後、NATO全加盟国での批准が必要な北欧2カ国加盟承認で、約束が履行されなければ、批准しないとトルコはあくまで強気だ。

つまり、EU、ロシア、旧ソ連邦のジョージア、アルメニア、そしてシリア、イラク、イランに囲まれたトルコは孤立を避け、混乱する同地域のキープレーヤーとして最大限の国益を引き出そうとしている。

エルドアン氏はウクライナ危機を利用してしたたかな外交を展開しているが、実は彼の足元は火の車だ。トルコ統計機構(TUIK)の発表(7月4日)では、2022年6月の消費者物価指数(CPI)上昇率は、5月の前年同月比73.50%から78.62%にさらに上昇し、過去約20年間で最も高い水準に達している。つまり、国民の不満は爆発寸前だ。

ロシアのウクライナへの軍事侵攻により、両国間の物の流れが停滞したことで、トルコの貿易および物流セクターが混乱をきたし、深刻な経済的ダメージを受けている。トルコが国連と協力してウクライナ産の小麦の輸送問題に関してロシアと協議しているのは、自国も死活問題になりつつあるからだ。

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