まず知っておきたいのは(これはよく言われることでもあるが)韓国では日本と比べて「人間関係の距離が近い」ということだ。
他人と見なす相手にはそっけないが、ひとたび「知人」認定されると、瞬く間に兄貴分や姉貴分、弟や妹といった家族に似た呼ばれ方をすることになる。
韓国は「情」を重視し、「人間関係の距離」も近い
韓国では、伝統的に強い影響を及ぼしてきた儒教が「五倫」と定めた「父子・君臣・夫婦・長幼・朋友」という5種類のカテゴリーに入らない「他人」のことは、基本的にはあまり尊重しない時代が長く続いたようだ。
しかしながら、無意識下に受け継がれてきた五倫の教えで、ひとたび家族や友人と認識されるや、あっという間に「近しい仲」としての人間関係が開始される。
象徴的なのは、その「呼び名」である。会って間もなく、年齢を確認し、年上であれば「ヒョンニム(兄さん)」「オンニ(お姉さん)」などと家族同様の呼び方になるので、心理的距離が近くなる。
なお同い年であれば、親しくなったあかつきには「ノ=おまえ」と、やや失敬な呼び方をするが、これは「親しき仲にも礼儀あり」とは反対の、韓国特有の「親しい仲に礼儀なし」、つまり親しさを示すために、礼儀をなくして接しているのだ。
よって、すぐに家族内でふるまうような図々しさにつながるのもこれまた事実なのだが、いい点は、あまり堅苦しい関係にならず、すぐ人間関係の距離が近づきやすいということだ。
しかも実際、韓国は先祖をひたすら遡るので「家族の概念」が広く、実際に遠い「ヒョンニム」である確率が高いことも、影響しているのかもしれない。これは、ひたすら過去に遡って家系図をつくる「族譜制度」の名残りだろうか。
たとえば「同じ金(キム)氏だから結婚に反対」というケースも最近韓国の身内であったのだが、いやこれ、高麗時代に遡って「同じ金氏」だからという理由なので、さすがに驚いたものである。
これに対し日本は、知り合って20年経っても「金(キム)さん」のままである。会って10分で「ヒョンニム」と(ないし相手が年上なら私をファーストネームで)呼び出す韓国とは、「対人関係の距離のとり方」に大きな差があることがわかる。
また日本語では「人さま」「世間様」と他人や社会への尊称があるが、ハングルにはそれに対応する訳語が私の知る限り、存在しない。
他人との人間関係の距離感は、その言語のボキャブラリーにも反映されるのである。
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