千葉雅也「思考を効率化しない事」がなぜ重要か 話題の哲学書『現代思想入門』の著者に聞く

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── 東京の道を歩いていると、電柱などに目のイラストが貼ってあるのをよく見かけるのですが、あれも同じような原理ですか?

千葉:歌舞伎役者の目みたいなデザインのやつですね。あれがまさしくフーコー的なものです。どこで見られているかわからないぞ、ということを言っているという。

東京都が推進する「動く防犯の眼」。自治体や企業などから申請を受け、デザインを提供する形で使用されている。

── ジョージ・オーウェルの小説『1984年』のような世界観ですね。

千葉:まさに。そういう相互監視的なものの論理は、フーコーを読むとよくわかります。

日本は同調圧力が強いが、一方で人に任せる緩さがある

── イギリスの話に戻りますが、あちらでは今、コロナに関する規制がすべて撤廃されて、ほとんどの人がマスクをしていないと聞きます。そのあたりの差は何なのかなと。日本は全体主義に陥りやすい土壌があるのでしょうか?

千葉:全体主義というか、集団主義というか。“世間様教”ですからね。

── 外ヅラが大事ということですか?

千葉:同調圧力が強いということじゃないですか?  まわりに合わせないと不安というか、仲間はずれにされたくないというのが強いということだと思います。

── イギリスはあれだけ監視されている一方で、個人の自由を妨げないという点にはすごく敏感だったりするのかなと。

千葉:そうかもしれません。でも、もしイギリスのデジタルの監視がより厳格なのだとしたら、実際に残酷なのはそちらの方かもしれません。どちらかというと日本は良かれ悪しかれそういうシステムは緩くて、だからこそアナログな、人による相互監視や、道徳に任せているところがある。コロナ禍でも強いロックダウンもしないで、自粛という形に委ねた。その問題もありますが、そこには良さもあるし、捨ててほしくないと僕は思いますね。

── 確かに、日本では最終的には人に委ねられている感じはします。

千葉:それが「人は信用できないから全部システムでやるんだ」という風になっていったら、それこそディストピアですよ。

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