千葉雅也「思考を効率化しない事」がなぜ重要か 話題の哲学書『現代思想入門』の著者に聞く

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思考を効率化しないということが、真のラグジュアリーである

── 『現代思想入門』を読んで個人的にホッとしたのが、すべてが中間という思想です。世界は時間的であって、すべては運動のただ中にある。だから一人の人間も、エジプトのピラミッドも変化していく過程の「出来事」であるという。

千葉:それはドゥルーズですね。すべてはプロセスであって、完成も未完成もないという考え方。

ジル・ドゥルーズ:1925~1995年、フランスの哲学者。「生成変化」という概念により、あらゆる事象は異なる状態になる「途中」であると説いた。

── その視点って、私たちに欠けているのかなと。例えば私は京都に住んでいて、歴史を壊さないように、こういう建物であるべき、こういう店は京都らしくない、という考え方がすごく根付いているなと実感するのですけれど、今が中間だという見方をすると、もう少し変化にも寛容になれるのかなと思ったりもします。

千葉:でも京都みたいな場所は、僕はちょっと別だと思いますけどね。ある意味特別区だから、守るべきものは、守らなきゃいけない。それは仕方がないでしょうと。東京みたいな街がどんどん変わっていくということとは別枠で扱えばいいと思います。

── 今、神宮外苑の再開発が問題になったりもしていますが──。

千葉:結局、何にどう価値を見いだすかということは、ケースバイケースで判断するべきであって、「ドゥルーズ的にプロセスで考えるんだ!」というので一貫しなくてもいい。維持するか、変えるのかというのも「どちらなのか?」という話になりがちですが。

── そこにも二項対立の構図が?

千葉:そうです。つまり片方をとるというのが、思考の経済として効率的だからです。頭のエネルギーの使い方として、どちらかに行った方が簡単だから。都市計画は場所によって原理が違いますよね、と言われると、「じゃあどっちなの?」とみんな混乱してしまう。しかしそれはケースバイケースでしょと思うわけです。

── 知らず知らずのうちに、思考が省エネのほうに偏っているということでしょうか?

千葉:そうだと思います。だから、仕事でも、人間関係でも、単純化したくなるのです。一つのポリシーや価値観、美意識とか。だけど、異質な価値観や美意識を混ぜた、負荷が高くてエネルギー効率が悪いような生き方というのが、僕は贅沢だと思うのです。思考を効率化しないという贅沢ですよ。『LEON』が目指すべきラグジュアリーも、そこにあるのではないでしょうか。

(構成・文/矢吹紘子 写真/KAOLI)

千葉雅也(ちば・まさや)
1978年栃木県生まれ。パリ第10大学、高等師範学校を経て、東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻表象文化論コース博士課程修了。博士(学術)。立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。フランス現代思想の研究と、美術や文学、ファッションなどの批評を展開し、小説にも取り組んでいる。著書に『勉強の哲学 来たるべきバカのために』『ツイッター哲学 別のしかたで』『意味がない無意味』など。『デッドライン』で第41回野間文芸新人賞、「マジックミラー」(『オーバーヒート』に収録)で第45回川端康成文学賞。
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