「SPY×FAMILY」がここまで人気を呼ぶ納得の訳 キャラの魅力、絶妙なストーリー、笑い、そして感動

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障害もわかりやすく「平和を脅かす政治家のボス」「容赦ない受験の面接官」「仲良くなれそうもない敵の次男」など、誰を倒せばいいか(攻略すればいいか)がつねにはっきりしている。

このように目的と障害がはっきりしているからこそ、どう期待していいかが明確で、引き込まれるのだ。そして大抵は、期待どおりの方向に進んでいく。ここもポイントだろう。『SPY×FAMILY』はあまり焦らしたり、引っ張りすぎたりしない。多少はピンチになるが、最後は気持ちよく終わらせてくれる安心感が、作品の魅力につながっている。

「フリ」と「オチ」が完璧のコメディー

『SPY×FAMILY』は王道のコメディー作品でもある。何よりコメディーの肝と言っていい「フリとオチ」が秀逸だ。

笑いにもいろいろな種類があるが、基本は「フリ」と「オチ」のギャップが笑いにつながることは共通している。そのギャップに意外性があったり、大げさであったり、時にはスカシや繰り返しなど含めて、フリに対してオチが絶妙だと笑いが生まれるのだ。

そのために大事なのはフリが的確であること。フリが的確だから、すとんと落ちるのだ。これはキャラクターに対しての期待が明確だという話にも通じる。

ロイドが「頼んだぞ」と固唾を飲んで見守ると、次の瞬間アーニャがずっこけるような行動をとり、おっ、今度はいつになくいけそうと思ったら、次の瞬間、見事に失敗するのだ。

そもそもスパイものは、「スパイと言えば……」という前提知識が受け手側に豊富だ。みんなの頭の中にあるスパイ像を逆手に取るとフリが作りやすい。しかももともとがシリアスなので逆にコメディーに転化しやすい。その辺りが『SPY×FAMILY』のポテンシャルと言えるだろう。

またフリとオチを、ボケとツッコミになぞらえれば、基本的にヨルとアーニャがボケ役で、ツッコミ役がロイドだ。時にはヨルやアーニャの独り言がオチになっていることもあるが、ほとんどが2人の勘違いやぶっ飛んだ発想にロイドが突っ込むことが多く、それは視聴者、読者の目線と同じである。

『SPY×FAMILY』では3人が超人的な能力を持っているのもあり、笑いが生まれやすい。また、出来事がいちいち大げさなのもコメディーとしての面白さを支えている。

スパイ組織の大げささ、金持ち学校の大げささ、任務遂行のためにそこまでするのかという作戦の大げささなど、すべてがいちいちぶっ飛んでいて、しかもそれを真剣にやる滑稽さが『SPY×FAMILY』の真骨頂といえる。

ただこの作品がすごいのは、コメディーで終わらずに、十分笑った後に、人間ドラマで感動するシーンが用意されていることだろう。この緩急こそが最大の醍醐味と言っても過言ではない。

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