「山手線止めてんだぞ!」どちらが悪かったのか 利己的な乗客、激高した駅員ともに想像力が欠如

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JR東日本は、「今回は『安全を守る』という駅員の使命感があったもので、その際に行き過ぎた言葉づかいがあったことは大変申し訳なくお詫び申し上げます。前段にお客様が身を乗り出していて危なくて、そこでお客様にお声かけをしてというところからスタートしていますので、安全を最優先してという考えで、今回口調が強くなってしまったというのはあります」という釈明のコメントを発表しました。

しかし、乗客の言動に問題があっただけでなく、JR東日本側にも複数の課題が見えたことも確かです。まず駅員の配置や危機対応などのガバナンスは機能していて反省点はないのか。たとえば、「激高する駅員を他の駅員がなだめようとせず、エスカレートさせてしまった」ところ1つとっても危機対応の脆弱さを感じさせましたし、「渋谷の駅員は日ごろ悪質な乗客に悩まされるなどのストレスを抱えていて、だからあんなに怒ったのではないか」などと疑ってしまう人もいるでしょう。

ホームドアの設置が進まないのはなぜ?

さらに言えば、そもそもJR東日本は渋谷ほど乗客の多い駅に、なぜ落下防止のホームドアをつけられないのか。財布に限らずスマホ片手に歩く人が多い現状では、人や物の落下の可能性を完全に消すことは難しく、ホームドアで防いでおきたいところ。工事期間、車両規格、費用などの問題はあるにしても、スムーズな運行、乗客の安全、駅員の負担軽減などの観点から、設置が進まない現状には首をひねりたくなってしまうのです。

JR東日本には今回の騒動を駅員1人ではなく、会社全体の問題としてとらえ、二度と起こらないような対策が求められているのではないでしょうか。その意味で今回の騒動は、「乗客を筆頭に、駅員、JR東日本の3者すべてに想像力が足りなかった」ように見えますし、このニュースを見ていたあなたも、客、現場の社員、組織の管理職といういずれかの立場で当事者になりうる事例なのかもしれません。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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