「AかつB」のほうが低確率なのにありえると思う訳 人間の非合理さを露呈させる簡単な予測の問題

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これを逆手にとっているかに見えるのが評論家の予測で、往々にして生々しい語りに走り、確率などどこへやらといったものも見受けられる。

ジャーナリストのロバート・カプランは、1994年に『アトランティック・マンスリー』の特集記事「アナーキーの到来(The Coming Anarchy)」で、次のような内容を予測した。

21世紀の最初の数十年で、水などの希少資源をめぐって戦争が起こり、ナイジェリアがニジェール、ベナン、カメルーンを制圧し、アフリカをめぐって世界大戦が勃発し、アメリカ、カナダ、インド、中国、ナイジェリアが分裂し、アメリカのラテン系住民の多い地域はメキシコとの国境を取り払い、カナダのアルバータ州はアメリカのモンタナ州と合併し、アメリカの諸都市で犯罪が増加し、エイズがますます蔓延し、ほかにもさまざまな惨事、危機、崩壊が起こる。

しかしながら、この記事がセンセーションを巻き起こしているあいだにも(ビル・クリントン大統領もホワイトハウスでこの記事を回覧させた)、内戦の数、浄水へのアクセスをもたない人の割合、アメリカの犯罪率はどんどん下がっていった。3年を待たずにエイズの有効な治療法が実用化され、エイズによる死亡者数は減少しはじめた〔アメリカでは1995年がピークで、世界でも2000年代半ばには減少に転じた〕。そしてこの予測から四半世紀以上が経った今、国境はほとんど変わっていない。

「リンダ問題」を考えてみよう

連言錯誤を最初に説明したのはトヴェルスキーとカーネマンで、その際に彼らが取り上げた課題は「リンダ問題」として知られている。

◆リンダは31歳の独身で、はっきりものをいう頭のいい女性である。大学では哲学を専攻した。学生時代は差別や社会正義の問題に関心をもち、反核デモにも参加していた。

次の6つの項目のそれぞれについて、確率を予測せよ。

・リンダは小学校の教師をしている。

・リンダは女性解放運動に参加している。

・リンダは精神科ソーシャルワーカーをしている。

・リンダは銀行の窓口係をしている。

・リンダは保険外交員をしている。

・リンダは銀行の窓口係で、女性解放運動に参加している。

回答者は、リンダが銀行員である可能性よりも、フェミニストの銀行員である可能性のほうが高いと考えた。ここでもやはり人々は「A」の確率よりも「AかつB」の確率のほうが高いと判断したわけだ。この課題の人物設定は、往年の雰囲気を醸している。ベビーブーム時代に多かった「リンダ」という名前や、褒め言葉のようであってそうでない「頭のいい」という形容、時代遅れの抗議活動、失われつつある職業など、いかにも1980年代前半を思わせる。

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