介護報酬の引き下げで、本当に困るのは誰か 「職員の処遇悪化」を声高に叫ぶ人たちの論理

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今回の介護報酬改定では、介護職員処遇改善加算が増額された。また、良好なサービスを提供する事業者への加算や、地域に密着した小規模な事業所への配慮も盛り込まれた。それとともに、政府の説明では、安定的な経営の確保に必要な利益率(平均で4%程度)を確保するような介護報酬の配分をすることとしている。社会福祉法人の内部留保をすべて吐き出せという話ではない。

高齢者は年3000円の「負担減」、40~64歳にも恩恵

確かに、介護関係者にとっては、介護報酬がプラス改定であるに越したことはないだろう。しかし、もしプラス改定をした場合にその裏表の関係として、国民の税負担と介護保険の負担の増加が伴うことを忘れてはならない。プラス改定になれば、その分だけ介護保険料も引き上げなければならないのだ。

今回、もしマイナス改定にしなかったなら、65歳以上の高齢者が支払う介護保険料は、2015年度から、全国平均で月5800円程になる見込みだった。この介護報酬のマイナス改定により、全国平均で月5550円程に抑えられる見込みとなった。つまり、介護保険料は、年間で1人当たり約3000円負担が軽くなった。

この負担減の恩恵は、65歳以上の高齢者だけでなく、同じく介護保険料を負担している40~64歳の人にも及ぶ。我々は、介護保険をめぐる給付と負担の両面を合わせてバランスよくみてゆく必要がある。介護給付を抑えても介護の質を落とさない工夫の余地はまだ残されている。

今後、高齢者が増える地域での介護施設の確保や、介護職員の人手不足解消は、宿題として残された。介護施設の確保は、「待機老人」を増やさないようにするためにも必要だ。

ただ、現在、特養の設置者は、地方公共団体のほかは社会福祉法人に限定されている。この社会福祉法人の「特権」も、先の内部留保問題に火に油を注いだ形になっている。特養の設置者に、営利法人を参入させるかどうかも問われるが、社会医療法人など他の非営利法人すら参入できないのが現状であり、改善が求められる。

前述した26都府県の例をみれば、施設設置に支障をきたしているのは、介護報酬引下げというより、現行のまま地方公共団体と社会福祉法人だけしか特養が設置できないという制度に限界があることは明らかである。

介護職員の確保も重要な課題である。もちろん、介護職員の給与を引き上げることで一部は解決できるだろう。しかし、介護事業者側の努力も不可欠だ。介護保険制度で圧倒的に多い小規模事業者が、規模を拡大(事業者同士の合併や業務提携など)させて、介護事業で「規模の経済」を発揮させることを通じて、処遇改善も図られよう。

東洋経済オンラインでの拙稿「変更必至の介護制度、今後の主役は市町村」でも述べたように、2025年までに地域包括ケアシステムを実現させるための取り組みは、まだまだ続く。 

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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