介護報酬の引き下げで、本当に困るのは誰か 「職員の処遇悪化」を声高に叫ぶ人たちの論理

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今回のマイナス改定の流れの契機といわれるのが、社会福祉法人の内部留保問題である。

2011年に社会福祉法人が黒字をため込んでいるという報道が出て、同年12月の社会保障審議会介護給付費分科会において、特養を運営する社会福祉法人の内部留保は、1施設当たり平均約3.1億円(2010年度決算ベース)であることが報告された。

事業者が受け取る介護報酬には、前述の通り税金も投じられており、特養はそれを主だった収入源としていることから、2013年には会計検査院による検査も行われた。会計検査院の検査を踏まえて指摘を受ければ、各省庁は有無を言わさず是正を迫られる。

介護職の離職率は改善、他の産業とさほど変わらず

その背景として、介護事業者の収入に比した利益の大きさといえる収支差率(=(収入マイナス支出)÷収入)をサービス別にみると、2013年度決算では、介護老人福祉施設では8.7%、通所介護では10.6%となっており、一般の中小企業の収支差率が2.2%(2012年度)、全企業でも4.0%であることに比して高水準である。

税金を元手とした介護報酬が主たる収入源となっている施設で大きな内部留保を貯めているのは、そもそも介護報酬が手厚すぎるからではないか、という機運が高まった。

ただ、そうはいっても、介護職員の人手不足は深刻である。介護職の有効求人倍率は、直近では2倍を超えている。団塊の世代が75歳以上となり要介護者がさらに増えると見込まれる2025年には、人手不足がもっと深刻になるとの予測もある。人材を集めるには、介護職員の給与をもっと上げなければならないとの声もある。

介護事業者は、これまでの介護報酬のアップによって経済力が増しているのに対して、介護職員の人手不足が深刻になっているというアンバランスな状態をどう克服するかが、介護保険制度の目下の課題である。

介護報酬をプラス改定にすれば介護職員の給与が上げられる、との主張もあるが、実際にそうだったのか。過去に、介護職員を処遇改善する特別策を設けずに介護報酬をプラス改定した時は、介護事業者の収支差率は軒並み改善したが、介護職員の給与はあまり増えなかったという。財政当局にも、介護報酬を全体的に増やしても、ただちに介護職員の処遇改善にはつながらないという認識がある。

そこで、2009年度から、介護報酬体系の中で「介護職員処遇改善加算」を設けて、これを増額することで、事業者が介護職員の処遇を改善するインセンティブを与える形にした。その頃から、介護職員の処遇は次第に改善されてゆき、介護職の離職率はかつて20%を超えていたが、2013年度には16.6%と産業計の15.6%とさほど変わらない水準にまで低下するに至っている。

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