「料理がしんどい」と感じる人が増えつつある事情 一番の問題は「しんどい」と口に出せないことだ

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実は「しんどい」を口に出すのがはばかられる状況が、一番問題である。そして、そのしんどさを軽く見積もる傾向が、強いのではないか。「お母さんがやっていたから、自分にもできるはず」、「他の人はできているのだから、できない自分はおかしい」。そのように思い込んでいる人は多いように思う。こうした悩みは口にしづらく、誰も言わないのでおそらく大勢の仲間がいることに、当事者も気づいていない。

主婦業を担う女性たちは長い間、いくら働いてもお金は得られず家族もあまり感謝しない、という報われない働き方をしてきた。半世紀前に、アメリカのフェミニストのベティー・フリーダンが、主婦業に感じる虚しさを「名前のない問題」と指摘し、数年前から日本でも1つひとつは細かいが実は大量にある「名前のない家事」が明らかになった。「料理がしんどい」気持ちも、そろそろ認められるべき負担ではないだろうか。

「料理がしんどい」に向き合う本が増えている

最近、「料理がしんどい」に向き合う本の刊行が続いている。最初に出たのはおそらく、2017年刊行のマンガ『晩ごはん症候群』(フクチマミ)。最近では人気料理家のコウケンテツ氏が2020年に『本当はごはんを作るのが好きなのに、しんどくなった人たちへ』で、自身もしんどいときがあることを告白している。

2021年には、料理が苦手な若い女性が主人公の小説『料理なんて愛なんて』(佐々木愛)と、食べる専門の女性が登場するマンガ『作りたい女と食べたい女』(ゆざきさかおみ)が刊行、と料理嫌いを宣言する本が続々と刊行されている。今、ようやく料理の負担を堂々と語れる時代が始まっている。

家事は、人が生きる限り必ず生じるもので、誰でもできる範囲で参加するのが理想だ。専業主婦だって、たまには作ってもらうことも、家族が食事作りで自立していくために必要なことと割り切ればいい。それよりも自分が倒れたら、いなくなったら、家族が何も作れず困ることだってありうるのだ。

家事の大半を女性が担うのが、日本の家庭である。少しぐらい自分の分担を減らしても、罰は当たらないだろう。自分がラクになって笑顔が増える、あるいは家族への思いやりが増すほうが、幸せになれるのではないだろうか。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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