日本に自動車生産は残るのか?--トヨタ、日産の賭け “最後”の国内工場(上)
天井からはモノを吊るさず、床も掘らない。設備は基本的に床の上に置かれているだけだから、レイアウトの変更は自由自在。ライン間の搬送も、固定設備ではなく自動走行の台車を使う。
仙台市の中心部から北へ車で50分。宮城県大衡村で今年1月に稼働を始めた、セントラル自動車の宮城工場の真骨頂は、そんな融通無碍な柔軟さにある。
神奈川県相模原市に本社と工場を置くセントラルは、トヨタ自動車から自動車の組み立てを請け負う系列車体メーカーの一つ。1960年以来、半世紀にわたって相模原市で操業してきたが、老朽化対策で会社丸ごと宮城県へと移転することになった。相模原工場もまだ操業しているものの、年内に閉鎖される。
宮城工場はトヨタグループが17年ぶりに国内で新設した完成車工場だ。市場が縮む一方の国内で一から完成車工場を建てるのは、これが最後になる可能性が高い。「最後の新設工場」は、日本国内で自動車製造を続けていくための、徹底的な生産革新を実験する場となった。
年間12万台という生産能力自体は移転前と変化がない。が、宮城工場の生産能力には、かなりの伸びしろがある。現在は輸出用の小型車「ヤリス・セダン」が2分間弱に1台生産されている。年12万台はこのペースでの1日2交替操業を前提とした数字だ。トヨタの工場では1分間に1台が一般的であり、かなり余裕を持ったペースといえる。作業員の数を増やすなどすれば、大幅な増産が可能とみられ、トヨタで生産を担当する新美篤志副社長も、「追加の設備投資は必要だが、能力増強はしやすい」と認める。
初期投資が軽く、かつ量の変動に柔軟に対応できるのが、宮城工場の最大の持ち味だ。その背景には、過去の拡大路線で過剰能力を抱えこんだことへの痛烈な反省があった。