「超売り手」米労働市場に潜む雇用ミスマッチ問題 みずほリサーチ&テクノロジーズの小野氏に聞く
――こうした中で、FRBはインフレ抑制のために利上げを急ぐようになっています。労働市場への影響をどう考えるべきでしょうか。
FRBは利上げを通じて労働市場の需給をバランスさせようとしている。利上げによって消費や投資が減速すれば、労働需要が減ることで需給はバランスしていく。
コロナ禍前なら、こうした需要減速は失業率の上昇に直結したかもしれない。ところが今は、先に触れたように求人数が異常な大きさに膨れ上がっている。FRBとしては、企業などが求人数を減らすだけでも、労働市場の需給バランスを取り戻すことができるとしている。
ただ、FRBのパウエル議長は5月に「インフレが明確かつ納得のいく形で下がるのを確認する必要がある」と述べ、失業率の上昇すら許容する姿勢を示した。6月に入るとリセッション(景気後退)を招く可能性を実質的に認める発言も行っている。
EV大手のテスラが世界で採用を全面停止し10%のレイオフ(人員削減)を行うという報道が出ているが、これも金融引き締めによるリセッションに備えた動きだろう。
難しいイノベーション阻害とのバランス
ただ悩ましいのは、求人数が増えるということは新しい市場にビジネスチャンスが生まれているということ。実際、アメリカでは新規の法人登記が記録的な水準で推移している。
アメリカがITをはじめとする成長産業を生み出しているからこそ、労働需要が高止まりしていると見ることもできる。労働需要を抑え込むことは、産業のイノベーションを阻害することにもなりうる。
――企業としては、労働力の需給ギャップを埋めるためにオートメーション化を進めようという動きになりますか?
そうなることが予想されるが、それも一時的には設備投資が増えるため、労働需給を悪化させる。設備投資をしようとすれば、そのための労働者が必要になるからだ。
圧倒的な労働需要は、アメリカ経済の成長力を中長期で底上げする可能性を示す一方、賃金の伸びが加速することを通じて高いインフレ圧力の源泉となる。
アマゾンやスターバックス、アップルで労働組合が相次いで結成されるという動きがあるが、こうした動きが広がり、労働者の発言力が高まれば賃金の伸びもさらに加速したり、あるいは高止まりしたりしやすくなる。
――企業や政府はどう対応すべきでしょうか?
企業や行政府としても、求められる人材の変化に応じて社会に出た後も新たに学び直すリカレント教育の機会を設けるなど地道な努力によって対応していくことになるだろう。ただこれには時間がかかり、インフレ抑制を急ぐFRBとしてはその成果を待っているわけにはいかないということだろう。
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