「超売り手」米労働市場に潜む雇用ミスマッチ問題 みずほリサーチ&テクノロジーズの小野氏に聞く

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しかし、労働省の調査によれば、コロナ禍を理由として非労働力化している労働者の数は激減してきている。年齢階層別の労働参加率をみると、比較的若い世代ではコロナ禍前の水準まで回復している。

いまだ労働参加率が低迷しているのは、45~54歳および55歳以上の中高年層だ。年齢層によって労働参加率の低迷理由が違うことを示している(上図)。45~54歳では「家族の世話」をする必要から就職も求職活動もできない労働者が増えている。

どのような「家族の世話」なのかは不明だが、コロナによって学校や託児施設にいけない子供の面倒を看なければならないといった問題を映じているとみられる。

55歳以上では「引退」が増えている。足元では株価が大きく下落しているが、数カ月前までは金融緩和を背景に株高が続いており、労働者の間で老後の生活資金への不安が薄れるという動きがあった。引退した労働者数は4月時点で2020年2月と比べ300万人増加しており、労働参加率の低下をほぼ説明できる。

見逃せない高齢化の影響

もっとも、足元の労働参加率の低迷は、コロナ禍の影響によるものだけではない。

2009年以降、アメリカでは高齢化が急速に進展し、労働者の引退が増えた。高齢化が進めば労働参加率は景気循環とは無関係に低下する。実際、長期的にみて低迷しているアメリカの労働参加率は、こうした人口動態の変化による部分が大きく、その影響を除けば労働参加率はほぼ正常化している。

――労働力の供給不足問題はほぼ解消したにもかかわらず、超売り手市場ということはどういうことなのでしょうか?

労働供給サイドよりも、労働需要サイドに大きな変化が起きているということだ。

高水準の求人数に表れているように労働需要はかつてなく強い。巨額の財政支援がその一因だが、注目すべきは職業別就業者数の変化だ。コロナ禍前から雇用が大きく増えた業種をみると、運輸が185.8万人、ヘルスケアサポートが126.7万人、経営が110.4万人という内訳だった。

こうした職業別雇用の動きが示しているのは、コロナ禍であらわとなった物流・医療問題をはじめ、デジタル化や脱炭素、地政学リスクなど歴史的・構造的な環境変化に対応できる経験やスキルを持つとみられる労働者の需要が高まっているということだろう。

求められる労働者の質が大きく変わっているために職種転換が容易ではなく、雇用のミスマッチが起きている。

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