ロシアを抑止できなかった根因と経済制裁の限界 制裁の成功条件は厳しいが動きを止める手はある

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経済制裁の有効性を検証した学術研究によれば、20世紀以降の115事例の経済制裁で明確に成功したと言えるのは5件しかありません。1989年のインド・ネパール(ネパールの中国への接近などを契機に、インドが経済封鎖したことが誘因となり、ネパール民主化の実現につながった)がその典型です。

経済制裁が成功する条件を見てみると、1つは国際社会が一致して抜け道を作らない状態にしていることで、2つ目は対象国の輸入依存度が高く、制裁によるダメージを被る経済構造になっていること、そして 3つ目は、国民の不満に対するガバナンスが脆弱であることなどが挙げられています。加えて、経済制裁を発動する側の不利益が、対象国の不利益よりも小さいこと、つまり、返り血が少ないことも成功の条件のように思います。だとすれば、現状でロシアに対する経済制裁を成功させるのは、構造的になかなか難しそうだというのが私の見立てです。

相手国との関係次第で経済制裁の効果は変わる

鈴木:制裁する側の経済が大きく、対象国のそれが小さい場合、経済制裁は大きな効力を持ちます。神保さんご指摘のインド・ネパールはまさにその典型でした。インド経済に対するネパールの依存度は非常に高かったのですが、インドがネパールに依存していたのは電力ぐらいでした。

日本と北朝鮮の関係も同じです。日本側には痛みが小さいので制裁をかけやすいという構造があります。そのため、先ほどの細谷さんの言葉を借りれば、経済制裁には「楽する」というようなニュアンスがどうしても出てしまいます。

一方、比較的対等な関係では、経済制裁は発動した側の損失も大きい、つまり返り血を浴びることが避けられないため、経済制裁の効力は限定的にならざるをえません。自国民の不満を高めてしまうような思い切った制裁が難しいのです。

一方、制裁の対象国に民主的な選挙などの国民の不満を吸収するシステムが確立されている場合、経済制裁は効力を発揮します。2013年のイランがその典型でした。イランには権威主義的な国家で民主主義など機能していないといったイメージがありますが、実際には選挙があって国民の不満が政権交代に直結します。

当時、核開発を巡りイランはアメリカなどから経済制裁を受けていましたが、大統領選挙では、反米保守で核開発を推進した現職のアフマディーネジャード大統領が、制裁解除を公約に掲げたロウハニに敗れ、政権が交代しました。反対に、国民の不満を抑圧する国への制裁は効きにくいということです。

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