ロシアを抑止できなかった根因と経済制裁の限界 制裁の成功条件は厳しいが動きを止める手はある

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抜け道がある、輸入依存度が小さいことも含め、ロシアには経済制裁が効力を発揮する条件が十分整っていません。特に今回は西側諸国による制裁で、国連の制裁ではないため、制裁を実施しているのは四十数カ国です。中国やインドに加え、ヨーロッパ諸国も天然ガスを買い続けているため、ロシアに圧倒的な「痛み」を感じさせることが難しくなっています。

また、ロシアには選挙制度はありますが、民主的な選挙とは言い難い状況であるため国民の不満を吸収し、国民の声を反映させる仕組みもありません。そうしたことから、経済制裁による政策の転換や体制の変更を期待するのは難しいと思います。

カネと弾がなくなる状況を創り出す制裁

そうした状況でも効果がある経済制裁が2つあると私は見ています。

1つは金融制裁です。それにより戦費の調達を難しくすることです。戦費を得られなくなることで戦争継続を困難にして行動変容に追い込める可能性はあります。もう1つは半導体など、さまざまな武器の部品の供給を止めることです。

半導体は中国などが代替品を提供することはできますが、精密誘導兵器などのロシアの兵器は、ヨーロッパやアメリカの装置や部品に依存していた部分が大きいため、その供給を止めることで制裁の効果が出ることは期待できます。すぐに部品の調達先を変えたり、使用する武器そのものを変えたりするのは、兵士の訓練などもあり難しいからです。つまり、ミサイルや戦車を作れなくするのです。

簡単に言うと、戦争終結に向けて効果がある制裁は、カネと弾がなくなる状況を作ることだと思います。それがうまく行けば、ロシアの継戦能力の低下を期待できます。もちろん、在庫がありますから、すぐに効果が出るわけではありませんが、期待はできると思います。

(第3回に続く、7月11日配信予定)

地経学ブリーフィング

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『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

2023年9月18日をもって、東洋経済オンラインにおける地経学ブリーフィングの連載は終了しました。これ以降の連載につきましては、10月3日以降、地経学研究所Webサイトに掲載されますので、そちらをご参照ください。
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