今、世界各国がさまざまな形で経済制裁を発動して、ロシアの行動を制限しようとしています。しかし、経済制裁には即効性はないのですぐに結果が出るわけではなく、今のところ戦争が止まりそうな気配もありません。
一方で、経済制裁は諸刃の剣で、発動した側にも損失が生じます。例えば、原油や穀物の高騰です。経済制裁だけが理由ではありませんが、制裁を契機として物価上昇に拍車がかかっています。
そこで、生じてくるのが、経済制裁で本当に戦争を終結させることができるのかという疑問です。一方で、戦争を終結させ、ロシアの行動を変容させるだけの損失を出させることができるのか。他方で、制裁を発動する西側諸国に生じる経済的損失に発動国が耐えられるのか。
経済制裁にはおのずと限界がある
細谷:鈴木さんは、ロシア・ウクライナ戦争勃発当初から、「万能薬」のごとく、経済制裁に過剰な期待を寄せることを警告しておられましたね。私はその警告は正しかったと思います。国際関係は、基本的に相互依存と自己利益を基盤としていますから、経済制裁にはおのずと限界があります。
歴史的に見ると、国際連盟のときも、日本やドイツの領土的野心に対して、軍事的な介入はせずに経済制裁と国際世論だけを頼りに安全を維持しようとしましたが、暴走を止めることはできませんでした。経済制裁は自らが軍事力を行使することで血を流すことを避けて、いわば「楽をして」目的を達成しようとするツールです。そもそも相互依存と各国の自己利益という国際政治の現実を前提としていますから、自らが深刻なダメージを負うような経済制裁は、なかなか実行されません。いくら声は大きくても実際には空洞化してうまく機能しないことは、国際連盟でも経験したことです。
神保:経済制裁の目的がロシアの行動変容を促すことなのか、プーチンを失脚させ体制を変えてしまうことにあるのか、その目的をどこに設定するかによって評価は変わります。仮に、ロシアの国家運営に支障をきたすほどの効果を与えて、プーチンに今回の決断が失敗だったことを認識させ行動変容させることを目的としているとしても、今回の経済制裁がなぜ、そのレベルに達する見通しが得られないのかを考えるのが重要だと思います。
例えば、ルーブルは一時下落しましたが、直ちに元どおりになってしまいました。ロシア政府の歳入の4割は原油と天然ガスからの収入ですが、中国やインドが買い支える構造があり、欧州諸国も特に天然ガスでは脱ロシアには時間がかかります。また、ロシアは原油や食糧を自給できるため、対ロシア輸出制限をしてもあまり効力がないという構造もあります。
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