「世界秩序」ロシア・ウクライナ戦争で揺らぐ根幹 機能不全の国連はどんな役割を担っていくのか

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細谷雄一・慶應義塾大学法学部教授 (写真:アジア・パシフィック・イニシアティブ)

一方で、ロシアの野望を挫くことができれば、世界秩序は法の支配をある程度維持し、さらにそれを確立していく契機になるかもしれません。従って、この戦争を「われわれには関係のないロシアとウクライナの戦争」と見てはいけないというのが私の立場です。日本は積極的に関与すべきです。

それは、軍事行動に関与するということではなく、今後の世界秩序を形成していくうえでという意味においてです。もし、核保有国主導の世界秩序に変化するようなことがあれば、最も不利益を被るのは核兵器を持たない日本です。その理解が日本の中でもっと広がってもよいかなと思っています。

秩序の空白地帯

神保:国家は自己中心的な存在であって、国家の上に立つ世界政府や中央政府といったものは、現実には存在しません。だからこそ国際法や国際制度・規範によって秩序を形成することが望ましいのですが、秩序を維持するためにはルール違反を未然に阻止したり、違反国を罰したりできる力(パワー)の下支えが必要です。そう考えると、今回の戦争がなぜ起きたのかという問いは、侵略行為に対して強いペナルティーを与える制度やパワーが存在したのか、という問いに読み替えることができると考えています。

ウクライナはNATO加盟国ではありませんので、アメリカを含むNATO加盟国の条約上の防衛義務は発生しません。1994年に米英ロの3国がウクライナの安全の保証をうたったブダペスト覚書を交わしていますが、同文書には具体的な措置が規定されておらず、今回の危機の際にも役に立ちませんでした。つまりウクライナは秩序の空白地帯であり脆弱であったということが議論の出発点です。

神保謙・慶應義塾大学総合政策学部教授(写真:アジア・パシフィック・イニシアティブ)

そのウクライナの安全保障がこれまでかろうじて支えられていたのは、ウクライナ問題は政治的に解決ができるかもしれないというロシア側の期待と、NATO諸国の軍事的関与がありうるという戦略的な曖昧性の組み合わせだったと考えます。ロシア側の政治的解決への期待は2014年に起きたウクライナのユーロマイダン革命と、ロシアのクリミア併合以降に遠のいてしまいました。そして後者については、アメリカがウクライナに直接軍事介入をしない、というロシア側の確信によって、侵略の利益が国際社会から与えられるペナルティーよりも大きいと判断したことが、今回の秩序崩壊の原因だと捉えられます。

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