具体的には、NATOや日米同盟といった軍事同盟で国連体制を補い、国連というシステムを破壊するような対決はデメリットであることを、ロシアや中国に理解させる。同時に、国連が完全に破綻しないように、アメリカやイギリス、日本といった国々が国連の中で一定程度、継続的に重要な役割を担っていく。そのロープロファイルな国連を理解し、活用することが重要だと思います。
価値判断のリトマス試験紙
神保:国連憲章には国際の平和と安全に対する脅威に対して強制措置をとることがデザインされています。国連安保理には、加盟国に対して軍事行動を含めた「すべての必要な措置」をとる権限と正当性を付与する役割が期待されました。実際、1991年の湾岸戦争ではイラク侵攻後のクウェートの主権回復のためにこの権限が付与され、2001年の9・11後には、国連安保理はアメリカの個別的・集団的自衛権を認識して「あらゆる手段を用いて闘う」ことを確認する機能を担いました。
しかしロシアのウクライナ侵攻は、国連安保理常任理事国が侵略の当事者であることから、現在の安保理が有効に機能することは論理的に不可能です。現在のような大国間競争が再来した時代に、国連に権限と正統性を付与する権威を期待することはできません。
だからといって、国連の機能不全をことさら強調し、その役割を切り捨ててしまうことは早計です。例えば、今回のウクライナ侵攻でも、国連は加盟国の価値判断を問うリトマス試験紙のような役割を果たしています。国連総会の対ロシア非難決議のように、各国が賛成・反対・棄権という3つの判断の基準を世界に対して明らかにするということは国連でなければできないことです。
鈴木:中ロとアメリカや西側諸国が対立する大国間競争という状況の中で、世界が国連という仕組みでは制御できないことは、間違いないと思います。にもかかわらず、依然として日本には国連に対する過剰な期待があり、国連の現実の姿が軽視され、国連にできることについて正確な理解ができていません。言い換えれば、過剰な期待をしているがゆえに、過剰に失望するという状況が起きている。
しかし、正当性の付与や非難決議の採択など国連の持つ機能は、一定程度は残っていることも確かです。それは、中ロも含めた世界中のほとんどの国が加盟しているという国連にしかない特徴から導き出されたものです。反対に、中国やロシアが国連から脱退してしまうと、国連の正当性は失われ、NATOやOECDといった中ロ抜きの国際機構と同じということになってしまうでしょう。国際社会において敵対する関係でも一緒に話し合う場が、さまざまな問題を抱えながらも存在している。そこが、非常に重要だと思っています。
(次回に続く、7月4日配信予定)
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