そこで注目を集めているのが、マクロン氏が提唱している「欧州政治共同体」構想だ。これはEUから離脱したイギリスを含め、ウクライナやジョージア、モルドバ、西バルカン諸国、さらにグリーンランドなど、自由と民主主義、人権の価値観を共有する国々が、政治や経済面などで協力する共同体を構築する提案だ。
メリットはウクライナなどのEU加盟承認に時間を費やすのに対して、同共同体参加のハードルが低く設定されていること。アメリカの干渉を嫌い、EUを舞台にリーダーシップを発揮したいマクロン氏は、イギリスを含む欧州の外交、防衛、エネルギーと食の安全保障の大転換で主役となることを目指している。イタリアのドラギ首相もウクライナ参加の念頭に、同構想の進展に期待感を示した。ただし、アメリカは当然反発している。
EUが一枚岩にならなければ、ロシア勝利を阻止できない
ロシアがウクライナで目的を達成するまで諦めない姿勢を見せている今、同じ欧州で自由と民主主義の価値観を共有するEUは、その真価が問われている。EUが1つの主権国家並みに一枚岩にならなければ、プーチン氏が指摘する強力な主権国家の勝利を阻止することはできない。
だがEUはもともと煩雑な手続きが必要な法と民主的手続きによる統合を進めてきたため、意思決定は容易ではない。エネルギーや食の危機で物価が高騰し、生活を圧迫される欧州市民を前に、「今は戦時の経済体制」(マクロン氏)と説得しても納得を得るのは難しい。
その間にも戦争の足音が欧州に迫っており、毎日、国民が命を落としているウクライナのゼレンスキー氏との温度差が、いまだに指摘されている。今度のEUおよびNATO首脳会議で、どこまで具体的な方針を打ち出せるのかが注目される。
ちなみにウクライナへの西側からの武器供給について、ウクライナのマリャル国防次官は6月14日、「ロシアの侵攻に対抗するため西側諸国に供与を要請した武器は、これまでに約10%しか届いていない」と語った。武器の入手が遅れれば遅れるほど、ウクライナが払う犠牲は大きくなる。ウクライナの西側への不信感をぬぐうためには、迅速な重火器供与やウクライナ兵士の訓練が必須と見られる。
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