「愛情不足のまま成長した人」過去を語る時の特徴 親との記憶を振り返る際に見られる3つの傾向
ところで、人生の物語を理解するとは、具体的にどういう意味だろうか?
カギは愛着の研究者の言う「筋の通った物語」を見つけることだ。自分の生い立ちをじっくり振り返ってみれば、家庭での経験にはプラス面とマイナス面の両方があったことと、自分がそれをどう感じているかに気づく。すると、その経験が自分の脳と人間関係の基本にどう影響しているのかがわかってくる。
たとえば、「筋の通った物語」の一部は、こんなふうになるかもしれない。
子どもをつい甘やかしてしまう女性の過去
「わたしの母はいつも怒っていました。わたしたちを愛してくれていたことにはなんの疑いもありません。けれど、母の両親は、ひどく母を傷つけていました。母の父親は働いてばかりで、母親は隠れたアルコール依存症でした。
わたしの母は6人きょうだいの一番上だったので、いつも完璧でいなくてはいけないと考えていました。でも、もちろん、そんなのは無理でした。だから、何もかもためこんで、しっかり自制を保とうとしてはいましたが、何か1つでもうまくいかなくなると、感情を爆発させました。妹たちとわたしはたいていその怒りをまともに受けて、ときには手を上げられることもありました。
わたし自身はときどき、子どもたちを好き勝手にさせすぎているのではないかと心配になります。つい甘やかしてしまうのは、子どもたちにいつも完璧でいなくてはならないというプレッシャーを感じさせたくないからでもあると思います」。
多くの人と同じように、この女性は理想的とはいえない幼少期を過ごした。しかし、そのことをきちんと整理して人に話し、母親に思いやりさえ示して、自分自身と子どもたちにとってそれが何を意味しているかを、じっくり丁寧に考えている。そして自分の経験を具体的に語り、記憶から理解へと昇華している。
過去を拒絶してもいなければ、過去にとらわれてもいない。これが、「筋の通った物語」だ。この女性のように、安定型愛着を努力して〝獲得〟しなくてはならなかった人もいる。