「愛情不足のまま成長した人」過去を語る時の特徴 親との記憶を振り返る際に見られる3つの傾向

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筆者は長年にわたって、過去に立ち向かうのに役立つ比喩を使ってきた。トラウマが、犬に噛まれるようなものだとすれば、自然な衝動として身を引くのは理解できる。しかし、犬に噛まれた手を引こうとすると、犬はもっと強く歯を食いこませる。

けれども、手を引くかわりに犬の喉に突っこめば、犬は喉を詰まらせてあなたの手を離すので、傷は最小限ですみ、治りやすくなる。トラウマもまったく同じだ。人は当然ながら、苦痛に満ちた記憶がよみがえるのを嫌って、トラウマから遠ざかろうとする。

「過去のことなんだし、変えようのないことについて今さら考えこんでなんになるの?」。

難題は成長のためのチャンス

しかし、これは違う。実際には、物語としての考察を組み合わせて記憶を呼び起こせば、記憶を調整できるかもしれない。自分の人生を理解する過程で未解決のトラウマを癒し、「筋の通った物語」を見つけることで、いっそう強くなれるかもしれない。それを〝トラウマ後の成長〟と呼ぶ人もいる。

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勇気と、自分の心と親しい人間関係や専門家の力を使って、そのトラウマにまっすぐ向き合うことが、自分自身への贈り物になるだろう。

「あらゆることを人生の師にしよう」。この心強い教えが、どうしても避けられない難題にぶつかったときに役立つ。難題は、成長のためのチャンスでもあるのだから。

ダニエル・J・シーゲル UCLA医科大学精神科臨床教授

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Daniel J. Siegel, M.D

CLAマインドフル・アウェアネス研究所取締役、マインドサイト研究所専務取締役も務める。ハーバード大学医学大学院卒業。『しあわせ育児の脳科学』(早川書房)、『脳をみる心、心をみる脳』(星和書店)、『子どもの脳を伸ばす「しつけ」』(大和書房)など、育児と子どもの発達に関する多数の著書があり、世界中で講演やワークショップを実施している。妻とともにロサンゼルス在住。

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ティナ・ペイン・ブライソン 児童青年心理療法士

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Tina Payne Bryson, Ph.D.

カリフォルニア州パサデナのザ・センター・フォー・コネクションの専務取締役として、子育てに関するカウンセリングや児童・青年のセラピーを行う。また、マインドサイト研究所の育児部門責任者も務める。南カリフォルニア大学で博士号を取得。『しあわせ育児の脳科学』(早川書房)と『子どもの脳を伸ばす「しつけ」』(大和書房)でダニエル・J・シーゲルの共著者となった。ロサンゼルス近郊に、夫と3人の子どもとともに暮らしている。

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