パナソニック「指定価格」導入に揺れる家電量販店 メーカー主導の「価格決定」に広がる期待と懸念

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実際、好意的な反応を示す販売店もある。ある大手家電量販店の幹部は、「価格だけで競う時代は終わっている。販売店としても、厚い利幅を得られる高付加価値な製品を作ってもらうほうがありがたい」と語る。

これまでは年末などの商戦ごとに、販売価格が段階的に下がっていくのが通例だった。メーカー視点からすると、売れ残った商品は販売店に販売奨励金を出して在庫をさばいてもらう。このような中でメーカーが利益を上げるためには、1年ごとに新製品を投入し、下落した価格をリセットする必要がある。

しかし、1年ごとの製品開発で大幅に機能を刷新するには限界もある。小さな機能変更が中心となってしまい、画期的な新製品は生まれにくい。それに対し新たな取引形態では、価格下落に対応する目的で新製品を投入する必要がなくなり、製品サイクルを2〜3年に伸ばせることになる。

パナソニックとしては開発に時間をかけられる分、より競争力のある製品を生み出せる。販売店も、高付加価値品を適正な価格で販売することで利益を確保しやすくなる。品田社長が主張するように、双方にメリットがあると捉えることもできるわけだ。

量販店のショールーム化が進む?

ただ、この取引形態に好意的な声ばかりというわけでもない。別の家電量販店幹部は「面白くはない」と本音を吐露する。「価格競争が和らいでいるとはいえ、セールは今でも集客手段の1つ。それがなくなれば、どうお客を集めたらいいのか」と不安を口にする。

「価格という訴求手段が使えなければ、量販店が提供できる価値は製品を生で見て体験してもらうことだけ。ただのショールームになってしまう」。この幹部が懸念するように、家電量販店の収益モデル自体をガラリと変える可能性もはらんでいるのだ。

パナソニックは「販売条件を満たし、取引契約を締結いただいた販売店にお取り扱いいただく」とし、新取引形態に応じない販売店には「丁寧にご説明し、ご賛同をいただけるように推進していきたい」と説明する。

しかし、上述の量販店幹部は「取引形態の変更に応じなければ取引を切られることにもなりかねない。最終的には応じることになるだろう」と諦観ムードだ。

量販店から懸念の声が上がる中で、新たな取引形態を浸透させることができるのか。その成否次第で、パナソニックの取り組みは日本の流通史に新たに刻まれる出来事となるかもしれない。

藤原 宏成 東洋経済 記者

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ふじわら ひろなる / Hironaru Fujiwara

1994年生まれ、静岡県浜松市出身。2017年、早稲田大学商学部卒、東洋経済新報社入社。学生時代は、ゼミで金融、サークルで広告を研究。銀行など金融業界を担当。

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