パナソニック「指定価格」導入に揺れる家電量販店 メーカー主導の「価格決定」に広がる期待と懸念

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アメリカが対日貿易赤字の解消のため、日本に国内市場の開放を求めた日米構造協議。それを受けて公正取引委員会は1991年に「流通・取引慣行ガイドライン」を制定した。これにより、メーカーが流通業者の販売価格を指定することが原則違法となった。

パナソニックが導入を進める新たな取引形態は、このときにメーカーが失った価格決定権を取り戻す動きと言える。まさに30年ぶりの転換と位置づけられるわけだ。

大橋教授によれば「10年ほど前から流通・取引慣行ガイドラインを見直す動きがあった」という。EC(ネット通販)の普及により、最安値で販売されるケースが大幅に増えたことが背景にある。新製品の投資回収ができないような販売価格が浸透してしまうケースもあり、メーカー側に価格決定権を持たせることについて、限定的であれば許容すべきという声も出ていた。

そうした中、同ガイドラインも2010年代にたびたび改正されてきた。こうした流れを受けたメーカーの取り組みが、「今、新たに具体的な動きとして出てきた」(大橋教授)わけだ。

品田社長は「三方よし」と強調

ガイドラインの制定以前、メーカー側の力が非常に強かった時代もあった。流通史において有名なのが、1964年から30年にわたって続いた「ダイエー・松下戦争」だ。

「価格破壊」で名を馳せた当時のダイエーは、松下電器産業(現パナソニック)の製品を2割引で販売しようとした。対する松下電器はダイエーへの商品出荷を停止。それにダイエーが反発し、独占禁止法に抵触するとして松下電器を告訴するまでに至った。両者の取引が再開されたのは、1994年のことだった。

【2022年6月20日10時32分追記】初出時の一部表記を上記のように修正いたします。

ダイエー創業者の中内㓛氏には「価格の決定権は消費者にある」との信念があった。一方、松下電器創業者の松下幸之助氏は「適正利潤の確保を重視する」との姿勢を崩さなかった。当時は松下電器製品の不買運動まで起きたが、今であれば松下氏の姿勢を理解する消費者も少なくないだろう。

「消費者はお店を回って価格交渉をするロスがなくなる。販売店はしっかり粗利を取ることができる。三方よしに近い」。パナソニックの品田正弘社長は6月3日の合同取材の場で、新たな取引形態をそう自画自賛した。

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