アメリカ「中絶反対派」がこんなにも強力な理由 小さな街で取材してわかった反対派の実態
「ライフ イズ ライト」という大合唱が最高裁ビルの前で響くと、「アボーション(中絶)イズ ライト」という声が続く。中絶反対派と中絶賛成派の両者の間に対話がまったく存在せず、それぞれ「相手が間違っている」と主張し、どちらも一歩も譲らないまま1万人規模のデモが終わった。
その翌年、大学1年生になったホストシスターのサラが妊娠していることがわかった。ピルを飲んでいたはずでは、と思ったが、どんな避妊法も100%ではない。サラは悩んだ末、産むことを決断した。「今年はいつもとはちょっと違った年になりそうだよ」と緊張した表情でサラは言った。
子どもの父親は、高校の同級生で別の大学に通うボーイフレンドだ。2人は結婚せず、サラは両親と相談してシングルマザーになる決意を固めた。私は出産に立ち会い、赤ちゃんが生まれてくる瞬間を撮影した。
つい1年前までプロムに着ていくドレス選びで大騒ぎしていたサラが、保育所探しに奔走しながら赤ちゃんのオムツを替えているのを見て、彼女の人生が激変したことを実感した。
それから20年後のアメリカ
そして現在、2022年。最高裁判所の「中絶は合憲」という49年前のロー対ウェイド判決が覆る可能性が出てきた。
もし多数派の保守派判事たちが「違憲」と投票すれば中絶は「合憲」ではなくなるのだ。その場合、各州の法律で「合法」か「非合法」が定められる。つまり、中絶が「犯罪」になる州が出てくる。
カリフォルニア州のロサンゼルスでは、中絶の権利を守るためのデモが行われ、数万人が参加した。
「私の母は50年以上前の中絶非合法時代に看護師として働き、自己流で中絶して命を落としそうになった女性たちを実際に見てきた」。そう語るのはメイクアップ・アーティストのエリサ・マーシュさん(55歳)だ。
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