アメリカ「中絶反対派」がこんなにも強力な理由 小さな街で取材してわかった反対派の実態

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手を黙って握り返すのが精一杯で、咄嗟に言葉が出てこない。もしこの女性の母親が中絶を選んでいたら、今目の前で立って微笑んでいるこの人は、この世に存在しなかったわけか。

まったく動じず、強烈な明るさを放つその若い女性の存在感に圧倒されて、思考が追いつかない。望まない妊娠の結果、中絶を選ぶ女性の数は、子どもを産んで養子に出す女性の数より圧倒的に多い。これがアメリカの現実だ。

スミスさんのように養子として赤ん坊を引き取り育てる努力は並大抵のことではないはずだ。だが、中絶を選んだ女性を「神に背く大罪」という言葉で糾弾するのははたしてフェアなのか。

中絶をするかしないかは個人の選択

中絶を選ぶしかない女性たちがなぜ多数いるのか、その理由を知る必要があると思った。同じ街のプランド・ペアレントフッドの代表者のマーサ・ランカスターさんを取材すると「若い女性たちが中絶を選択する一番の理由は、経済的な問題です」と即答した。

プランド・ペアレントフッドが中絶反対派から「最大の中絶提供団体」として糾弾されていることを問うと、彼女はこう答えた。

「私たちは中絶すべきだと宣伝しているわけではありません。中絶するかしないかはあくまで個人の選択です。中絶以外にも出産して子どもを養子に出す選択肢もあります。でも、多くの女性がさまざまな理由から、出産して養子に出すよりも、中絶を選ぶのがこの国の現実で、その選択権はあくまで彼女たちにあります」

同じ街のカトリック教会の神父に「もしカトリック教徒が中絶したらどうなるのか?」と聞くと「中絶は破門に相当する。だが、もし本人が悔い改めれば、カウンセリングをして、教会から追放することはしない」と答えた。

ちなみにカトリックの神父は全員、男性だ。宗教が日々の暮らしと密接に関わっている小さな町では、自分の属するキリスト教会から追い出されることは死活問題に近い。

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