アメリカ「中絶反対派」がこんなにも強力な理由 小さな街で取材してわかった反対派の実態

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

「中絶問題を取材したい」と言うと、エディターが地元の「中絶反対派」のリーダー的人物の名前をメモに書いてくれた。アポを取り、出かけようとすると、同僚記者たちは「ひえー、あそこに行ってはたして洗脳されずに無事に帰ってこられるかな?神のご加護を!」と大騒ぎだった。

「中絶問題とキリスト教信者の政治的パワー。これがわからないとアメリカって国の半分もわからないよ。頑張って」と背中を押してくれたエディターもいた。

「中絶は殺人です。おそろしい罪です」

街はずれにある、マリアン・ピース・センターというキリスト教団体の運営者、バーバラ・スミスさんの自宅を訪ねた。彼女は小さな街に、全米から4000人のカトリック教徒を集めてイベントを開催してしまうほどの大きな影響力の持ち主だ。

彼女とその仲間は、中絶処置を提供するプランド・ペアレントフッドの建物の前で「中絶反対」を唱え、マリア像を手に賛美歌を歌い祈るイベントも行っていた。

「あなたの宗教は何?」とスミスさんは開口一番、私に聞いてきた。「無宗教です」と私が答えると「そう。私はカトリック教徒。中絶は殺人です。おそろしい罪です」と言った。部屋の中には100体以上のキリスト像が飾られており、台所のシンクの中にも、十字架に磔されたキリスト教像が置かれていた。

「この国では法律上、中絶は合法ですよね? それなのに、なぜ罪なのでしょうか?」と聞いてみた。

「たとえこの世の法律で合法であろうと、神の法の下では最大の罪です。妊娠の瞬間から私たちには産む以外のチョイスはありません。授かった命を殺す権利は、誰にもないからです」

汝殺すなかれ、という聖書の言葉を守ることがカトリック教徒としての最大の使命なのだという。

「では、もしあなたがレイプされて妊娠したとして、中絶はしないんですね?」と聞くと「もちろんです。そうだ、ちょっと待ってて」

彼女が隣の部屋から連れてきたのは、透き通るような白い肌とばら色の頬をした20歳ぐらいの若い女性だった。「この子は私の養子です。この子の母親はレイプされたんです」。するとその女性は「こんにちは!」と曇りのまったくない笑顔で微笑み、さっと手を差し出した。

次ページ女性が中絶を選ばざるをえない事情
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事