アメリカ「中絶反対派」がこんなにも強力な理由 小さな街で取材してわかった反対派の実態
「このピル、どうやって手に入れたの?」
「入手経路はいろいろあるよ。地元のプランド・ペアレントフッドでも処方してくれるし」
プランド・ペアレントフッドとは日本語に訳すと「全米家族計画連盟」で、避妊薬の処方や、中絶の処置などを提供する医療サービス非営利団体のことだ。
「サラのお母さんはこのピルのこと知ってる?」
「病院では医師の処方箋が必要だけど、親の許可なしで高校生にピルを提供してくれる所は街に複数ある。だから親を通さなくてもOKなんだよ」
「そうなのか!」
「ちょっと、本当に何も知らないんだね。大丈夫?」
私はバスルームに一眼レフのカメラを持ち込んで「ピルを撮影してもいいかな?」とサラに聞いた。「いいけど……変わった人だね」とあきれられたのを覚えている。
ディズニー映画に夢中なサラは、壁中にプリンセスのポスターを貼っていた。ファンタジーいっぱいの夢のお姫様イメージと戸棚の中にある避妊ピルの存在。異質なはずのその2つが共存するのが、アメリカの高校生の現実なのだと知った。
山のように来る「中絶反対」の投書
その後、同じ街の新聞社で記者として働き始めて驚いた。「中絶は神への冒涜!」「中絶反対!」「受精の瞬間から胎児には生きる権利がある。殺すな」と書かれた読者からの手紙や投書が毎日大量に編集部に届くのだ。「ダーウィンの進化論なんて許せない。そんなものを学校で教えるな」と書かれた手紙もあった。
ほとんどの同僚記者たちは毎日届く投書に「またか……」とうんざりしていた。大量の投書はほぼすべてが紙面の投書欄に印刷されて読者のもとに届く。投書欄は人気のコーナーでもあるのだ。
日本からやって来た私には、「中絶」というごくプライベートな選択に対して、住民たちの感情がここまで沸騰している理由が理解できなかった。アメリカでは中絶は合法であり、1973年の最高裁の「ロー対ウェイド判決」によりその権利がすでに保障されているのに、なぜ他人の選択をここまで糾弾するのかーー。
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