ラーメン店では、約160席ある店舗をわずか4人のアルバイトで調理から皿洗い、接客までを切り盛りしなければならなかった。事務職として採用されたのに、工場の製造ラインに回されたり、日勤の正社員として入社したはずなのに、実際には夜勤専門の契約社員だったりしたこともある。「トイレ掃除はバイトにさせろ」など非正規労働者に対する差別的な発言も受けたという。
一方でミスが多ければ、周囲の同僚や上司の負担は増えるし、時には金銭的な損害が発生することもあるのではないか。もし同僚がトイレに行くたびに20分も離席すれば、私も戸惑うと思う。
「共生」のために必要なこと
本連載には発達障害で貧困状態にあるという人からの取材依頼は多い。多くはパワハラなどに遭い、仕事が続かないというものだ。そうした人たちに話を聞くとき、私は必ずパワハラのきっかけになったと思われるミスやトラブルについて尋ねる。ただそれはパワハラの理由を知るためではない。発達障害当事者の発想や思考回路を、私自身が知りたいし、広く知ってもらいたいと考えるからだ。
その点、トシキさんのトイレをめぐるトラブルは興味深かった。トシキさんの主張は間違っていない。一方で私たち定型発達(発達障害のない状態)の人間の多くは「まさかここまで頻繁にトイレに行くとは」と驚くだろう。共生とは、こうした日々生まれる溝を、両者が歩み寄ることで埋めていく作業の積み重ねなのではないか。
少し話はずれるが、私はマイノリティーに対する差別や学校や職場でのいじめが許される理由などないと思っている。差別される側やいじめられる側にも原因があるというロジックは、加害者側が自らの行為を正当化する際の常套句だ。被害者側が責められる理由はないし、トシキさんが受けたパワハラも発言した側が100%悪い。
ただ働くうえでのケアレスミスをなくす努力は、ある程度必要だろう。不安定な非正規労働者や悪質企業がはびこる中、安易に「働かざる者食うべからず」という価値観を持ち出す気はない。しかし、働いて賃金を得る以上、それに見合った結果を求められるのは仕方がない面もある。
これまでの取材を振り返ると、少なくない人が発達障害と診断されたときに受けた知能検査の結果などを持参してくれた。彼らは職場でもそうしたデータを基に、周囲に自身の得手不得手を説明することで理解を得たり、ミスやトラブルを防ぐための試行錯誤を繰り返したりしていた。
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