日本の対中戦略がこれまで不在だった3つの理由 成長をどう受け止め日米同盟とも整合性を図るか

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そのようにして成立した「1972年体制」は、1978年に福田派の領袖の福田赳夫首相の政権で日中平和友好条約を締結したことが大きな意味を持つ。いわば、自民党内で派閥横断的に、中国との経済関係を拡大し、友好関係を醸成することへの支持が確立していったのである。最大野党の社会党も、対中関係の発展には自民党以上に積極的であり、さらには外務省のチャイナ・スクールが水面下で実務的にそれを支えていた。そのようなコンセンサスも、冷戦の終結と、日本の経済的な停滞による日中間のパワー・バランスの変化によって、侵食されていった。

さらに、現在の国際環境は、冷戦時代に「1972年体制」が成立した時代とは、大きく異なっている。中国とロシアは実質的に同盟国のような協力関係を示し、2022年2月4日の中ロ首脳会談では、両国間の「限界のない友情」を示し、また両国の戦略的協力は「不動なもの」と位置づけた。中国とロシアという2つの権威主義体制が協力を深め、他方で日米欧の民主主義諸国が連携を強化する中で、米中対立を中核として国際社会は2つの勢力への分断を強めている。そのような大きな見取り図の中に、日中関係の今後を位置づけて、対中戦略を検討する必要がある。

日本に求められる外交努力

そのような国際情勢の変化を前提として、日本政府は国家安全保障会議の4大臣会合を活用し、日本の国家戦略の中核に対中戦略を位置づけて、政府としての長期的な基本方針を有するべきである。その際には、米中対立が緊張を高める中で、日本は日米同盟を基軸に対中抑止力を強めると同時に、中国との多層的なコミュニケーションを維持、強化して、日中関係が一定程度安定的に発展するための外交努力を行う必要がある。

そのうえでアメリカとは異なり日本がRCEP(地域的な包括的経済連携)に参加して、日本の国益を考慮して主体的に東アジアにおける地域的な経済協力を促進することも重要な意味を持つ。対中抑止力の強化を推進し、一定の経済領域では経済安全保障の観点から対中経済関係に制約を設けながらも、地域経済の発展のための日中間の協力を進めることは可能だ。

2021年度末(2022年3月)をもって対中ODAがすべて終了したということは、戦後の1つの時代の終わりを画することになるであろう。だとすれば、日中国交正常化の50周年となる2022年中に、今後50年を視野に入れた長期的な対中戦略を検討して、それが政府内で、さらには国民の中で共有されることが重要となるであろう。

(細谷雄一/アジア・パシフィック・イニシアティブ研究主幹、慶應義塾大学法学部教授、ケンブリッジ大学ダウニング・カレッジ訪問研究員)

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『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

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