仕事が「1人に集中」する職場が陥る最悪の結末 仕事が振られない人にもストレスがのし掛かる

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この「フロー型」は、オンライン上で行う仕組みさえ構築すれば、顔を合わせたコミュニケーションがなかなかできない職場でもかなり有効です。みんなが瞬時に助け合える環境をつくるわけです。

自社の置かれた状況や仕事の特性によって、「ストック」すべき情報と、「フロー」で瞬時に共有すべき情報が何かを考え、仕組みを構築する必要があります。その仕組みができると、「忙しいときに仕事を手伝う」というレベルを超えた、高いパフォーマンスが出せる集団になることができます。

「当事者意識」を高めると会社の質が上がる

また、情報共有が十分にできていない組織には、集団だからこそ起こる手抜きや責任逃れのような心理が働いていることが少なくありません。例えば「傍観者効果」というものがあります。何か事が起こったとき、それを見ている人が多くなればなるほど、「誰かがやってくれるだろう」と思い、行動が抑制されるという心理現象です。

その背景には、自分がやらなくてもいいという想いの他に、行動を起こした結果に対して、周囲から批判的な評価を受けることへの恐れもあると言われています。

また、「社会的手抜き」と言われる現象もあります。フランスの農学者マクシミリアン・リンゲルマン氏が「綱引き」や「荷引き」などを行う際、人数が増えるほど1人当たりの発揮する力が減るという「リンゲルマン効果」を見出し、その後もさまざまな実験で立証されてきました。

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共通するのは、当事者意識の欠如です。「社会的手抜き」に関する実験のなかでも、集団で作業する際に個人の作業量がわかるようにしている場合や、被験者が与えられた課題に関心を持っていて、達成しようという動機付けが高い場合には社会的手抜きが起こりにくいと言われています。

つまり、「自分がやるべきことが明確で、何のために行うのかという動機付けがしっかりしている=当事者意識がある」ことが、重要になるのです。では、組織をまたいだ仕事における当事者意識はどのように生まれるのか。

そのキーワードは「全体最適」です。部門ごとに目標を達成する最適な状態をつくっていく「部門最適」の一方で、全社的に最適な状態をめざすのが「全体最適」という考え方です。

各部門にはそれぞれの役割があり、1人ひとりの仕事は、全体とつながっています。それらがうまく融合しているので会社全体が機能しているはずです。それゆえ会社は売上や利益を出せているのです。この、会社全体で良くなっていくという認識が広がることが重要になります。

要は、「自分の部門だけが良ければいい」のではなく、「会社全体で良い状態をつくっていく」という意識を、いかに持てるようにするかが大切なのです。

松岡 保昌 モチベーションジャパン代表取締役社長

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まつおか やすまさ / Yasumasa Matsuoka

人間心理にもとづく経営戦略、組織戦略の専門家。1986年同志社大学経済学部卒業後、リクルートに入社。『就職ジャーナル』の編集や組織人事コンサルタントとして活躍。2000年にファーストリテイリングにて、執行役員人事総務部長として当時の急成長を人事戦略面から支える。その後、執行役員マーケティング&コミュニケーション部長を歴任。2004年にソフトバンクに移り、ブランド戦略室長としてCIを実施。福岡ソフトバンクホークスマーケティング代表取締役、福岡ソフトバンクホークス取締役として球団の立ち上げを行う。

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