日本のスポーツ教育で暴力の根絶が難しい理由 サッカー現役日本代表「指導者はもっと勉強を」

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17歳だったダニエル選手を見いだした佐藤さんは、「どういう理由があろうとも、暴力は絶対にダメ」と話す。

「監督の望んだプレーができないとか、自分の思いと違うことをやったからといって殴るという行為は、選手を人間として扱っていない証左ですよ。言葉でしっかりと伝えなければ。きちんと会話をして納得させるのが、コーチであり監督です。

中大サッカー部にも問題のある選手はいます。指導者として『お前の悪いところは●●だ。●●を直せばよくなる』と指摘します。徹底的に話しますね」(佐藤さん)

暴力指導がたびたび社会問題として話題になるにもかかわらず、「なぜ、暴力指導がなくならないのか」と思うことがあるそうだ。

選手の将来を見越した指導が当たり前

「千葉ロッテマリーンズの佐々木朗希投手は、甲子園出場がかかった高校最後の大会で、監督が投げさせなかったですよね。無論、彼の将来を見越して、肩を壊すことを回避させたからです。

昨今は、そんな科学的指導が当たり前になっています。佐々木投手は将来があり、プロにいってから長く活躍する選手なわけです。高校時代に潰してはならないと、目先の勝利を追うだけじゃない指導でしたね。私もそんな気持ちを忘れずに、中大生と付き合っています。

秀岳館高校の子たちだって、まだまだサッカーを続けたいはずです。20歳になっても、25歳になっても、続けられる限りプレーするでしょう?

そこまで見据えた指導をしていないから、今回のようなことが起こるんだと思います。『高校時代はここまで教え、そのうえでこれからのサッカー人生につなげるんだ』という考えがないからこその行為ですね」(佐藤さん)

中央大学卒業後に住友金属でプレーした佐藤さんは、後に日本代表監督も務める世界的なスーパースター、ジーコとも共にプレーしている。

「ジーコは厳しかったですよ。きつい言葉も日常的に吐きました。ボロカスに言いますよ。でも、勝つため、そして、チームが強くなるためなんです。その2つのゴールに対して、マイナスになることについては普通に言葉を荒げます。

しかし、選手が気づくための促しでもあるんです。ブラジル代表の元10番が必死だったら、言われたほうも納得しますよ」(佐藤さん)

日本において、高校生プレーヤーが監督に異を唱えることなど、まず不可能だ。ひいては日本社会において、多くの場合、後輩が先輩に、あるいは部下が上司に逆らうことは許されない。

秀岳館高校の選手たちは、監督、コーチにおびえながらサッカーをやっていた。これではプレーすることの喜びなど、味わえるはずもない。

「指導者側に自信がないから、そういう方向に進んでしまうのではないでしょうか。本来、暴力を振るったら永久追放が妥当です」(佐藤さん)

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